いよいよ始まる、ぎょしゃ座イプシロンの食

【2009年5月13日 アストロアーツ】

かつて、直径が太陽の3000倍もある伴星が原因とされていた、ぎょしゃ座ε(イプシロン)の27年ぶりの食がまもなく始まろうとしています。5月になりぎょしゃ座は西の空に傾いてきましたが、このミステリアスな星の変化をぜひこの機会にご覧ください。


文:滋賀県ダイニックアストロパーク天究館 高橋進さん

(ぎょしゃ座ε連星系)

ぎょしゃ座ε連星系。伴星が巨大なのではなく、巨大な円盤が存在するというのが最近のモデル。クリックで拡大(提供:高橋進氏(ダイニックアストロパーク天究館)、以下同)

(ぎょしゃ座εの変光星図)

ぎょしゃ座εの変光星図。クリックで拡大

(1982〜1984年のぎょしゃ座εの光度曲線)

1982〜1984年のぎょしゃ座εの光度曲線。クリックで拡大

ぎょしゃ座εはふだんは2.9等星ですが、なんと9892日(約27年)ごとにおよそ0.9等ほど暗くなることが19世紀にわかりました。それもおよそ5か月ほどかかって極小光度になり、その状態が1年以上も続いたあと、また5か月ほどかけて元の明るさに戻るという大変に長い期間にわたる食なのです。ぎょしゃ座εが食変光星だと考えると、伴星がそれだけ大きいということです。距離が2000〜3000光年と見積もられることから、この伴星の直径が太陽の3000倍の宇宙最大の星という話になったのでした。超巨星として有名なベテルギウスでもせいぜい太陽の800倍程度ですから、いかにとんでもない大きさかよくわかります。10年ほど前の天文書には、宇宙で一番大きな星はぎょしゃ座εの伴星、とよく書かれていました。

しかし普通の食変光星なら食の間は伴星のスペクトルが観測されるはずですが、ぎょしゃ座εでは食のときもそうでないときもF型の同じスペクトルが観測されます。そこで最近は、巨大な円盤がF型星のまわりを回っており、円盤は食の期間にF型星の一部を隠しているだけなので食の間もスペクトルに変化がないと考えられています。

ただ円盤の中心の星がどんな星なのかまだ未解明なところがいくつもあります。一説では円盤の中心の星もまた連星系なのではないかとも言われています。円盤の形状、特に中心星の近くがどのようになっているのかもまだよくわかっていません。今回の食ではさまざまな機材とさまざまの波長の観測によってこのミステリアスな星の謎が解明されることが期待されています。

今回の食はおおよそ下記のように起きるかと思われます(ステンセルらによる)。

2009年8月初旬 食の始まり
12月下旬 皆既食の始まり
2010年8月初旬 食の中心
2011年3月中旬 皆既食の終わり
5月中旬 食の終わり

ただ食の始まりのころのぎょしゃ座はシーズンオフでなかなか観測しづらい時期です。その意味ではまず今のうちに、ぎょしゃ座εを観測していただきたいところです。CCDや光電管による観測も行っていただきたいところですが、肉眼での観測もぜひ多くの皆さんにお願いします。変光範囲が0.9等ですので肉眼でもわかります。望遠鏡も双眼鏡も必要ありません。ぜひ皆さんの積極的な観測をお願いします。

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