ボランティアが発見、「宇宙のお化け」

【2008年8月14日 Yale University

ボランティア参加型の銀河分類プロジェクト「The Galaxy Zoo」の画像中に、専門家も首をかしげるガスの塊が発見された。今までに誰も見たことのないこの天体は、観測者らから「宇宙のお化け」と呼ばれている。


(銀河IC 2497とHanny's Voorwerpの画像)

銀河IC 2497とHanny's Voorwerp(緑の部分)。クリックで拡大(提供:Dan Smith, Peter Herbert, Matt Jarvis & the ING.)

なぞのガスの塊を発見したのは、The Galaxy Zoo(解説参照)プロジェクトのボランティアであるオランダのHanny van Arkel氏。The Galaxy Zooを運営する研究者は、同氏の発見報告を受けてこの天体を調べ、新種の天体である可能性を指摘したのである。このガスの塊はまもなく、Hanny's Voorwerp("Voorwerp"とは、オランダ語で「天体」)として知られるようになり、世界中の研究者から望遠鏡を向けられることとなった。

Hanny's Voorwerpは、中心に大きな穴の開いたガスの塊で、全体の温度は1万度、星は存在しない。The Galaxy Zooプロジェクトの考案者の一人、米・エール大学のKevin Schawinski氏は、「当初は、一体何なのかまったくわかりませんでした。太陽系内の天体なのか、それとももっと遠い宇宙の片隅に存在する天体なのかさえも、わかりませんでした。実際に観測してみても、やはりなぞの天体です」と話している。

観測の結果から、Hanny's Voorwerpは、近くにある銀河IC 2497と同じ約7億光年の距離に位置していることが明らかとなった。

一方、その輝きの理由については、過去に何か強力なエネルギーによる影響を受けたためと考えられている。Hanny's Voorwerpの周辺とIC 2497を観測したSchawinski氏は、「過去IC 2497に、巨大で明るいクエーサーが存在していたと考えています。IC 2497、Hanny's Voorwerpはともに巨大な天体です。そのため、クエーサーとクエーサーにエネルギーをもたらしていたブラックホールの活動が10万年くらい前に止まったとしても、いまだに当時放射された光によってHanny's Voorwerpが輝いていることが考えられます」と話している。

たとえば、超新星でも数十年から数世紀前に起きた爆発の光が遅れて地球に届くという、光の「こだま」が見られることがある。超新星爆発が放射した紫外線や可視光が外側へ広がりながら周囲のちりを次々と暖めることで、内側から順に赤外線が放射されるのだ。

Hanny's Voorwerpの正体は、現在のところ、反射星雲のように光を散乱して光る小さな銀河と考えられている。しかし、中心に見られる直径約1万6000光年の穴がどのようにして形成されたのかはなぞであり、今後ハッブル宇宙望遠鏡による観測も予定されている。

The Galaxy Zoo

膨大な数の銀河の画像を分類する目的で2007年に開始されたプロジェクト。今までに15万人のボランティアが参加し、インターネット上に公開されている銀河の画像のうち、すでに100万枚の画像の分類が行われ、研究に役立てられている。