電波望遠鏡が明かす、超巨大ブラックホールのなぞ

【2008年5月12日 NRAO

多くの銀河の中心には超巨大ブラックホールが存在し、光速に近い速度でジェットが噴出している。物質がこれほどの高速にまで加速されるメカニズムは長い間なぞであったが、現在もっとも有力な理論を支持する観測結果が電波望遠鏡によって得られた。


(超巨大ブラックホールの想像図)

超巨大ブラックホールの想像図(ブラックホールに近い領域で巻き上げられた磁場によって、ジェットが形成されるようす)。クリックで拡大(提供:Marscher et al., Wolfgang Steffen, Cosmovision, NRAO/AUI/NSF)

ひとたび吸い込まれると光さえも脱出できないブラックホールの近くから、超高速で物質が噴出するのはなぜだろうか。多くの天文学者が考えるメカニズムは、次のとおりである。

ブラックホールに引き寄せられた物質は、「降着円盤」と呼ばれる平たい回転円盤を形成する。物質は円盤の中を回転しながら徐々に内側へ移動するのだが、円盤を通る磁場がこれに引きずられる。そして、元々降着円盤に対して垂直に通っていた磁力線は、最終的に中心のブラックホールから突き出るような方向にきつくねじられた束を形成する。このような磁力線の束にひとたび物質が入りこめば、中に閉じこめられたまま外側に向かって加速されるというわけだ。

この理論が正しければ、降着円盤から吹き出す物質は、ねじれた磁力線の束の中をらせん状にひねられながら移動するはずだと予測されている。さらに、物質が放つ光やその他の電磁波は、その通り道がほぼ地球の方を向いているときには明るく見えることも予測されていた。

しかし、これらの予測を確認するためには、円盤からジェットが噴き出す部分を大きく拡大した研究が必要とされる。そこで、米・ボストン大学のAlan Marscher氏がリーダーをつとめる国際的な研究チームは、高い分解能を持つアメリカ科学基金の超長基線電波干渉計(VLBA)を使い、とかげ座の方向約9億5000万光年の距離にある天体、とかげ座BL(BL Lac)を観測した。BL Lacは、ブラックホールをエネルギー源としている銀河中心核のなかでも、とくに強力な「ブレーザー」と呼ばれる天体である。

観測によって、予測どおりらせん状に物質が噴出するようすが見られた。

またMarscher氏らは、ジェットが加速される領域の外側には不動の衝撃波面が存在していて、吹き出した物質が衝突すると増光が見られるだろうと予測していた。そこで、ジェット中を外側へ移動する物質の位置をVLBAで追いつつ、世界中の望遠鏡を動員して明るさの変化を調べた。その結果、確かに予想どおりの位置で可視光、X線、ガンマ線などの増光が見られた。

今回の観測成果についてMarscher氏は、「わたしたちは、今まででもっとも鮮明に、もっともジェットの中心に近い部分をとらえました。ブラックホールという巨大な加速器を理解する上で、貴重な情報が得られました」と話している。