空間を曲げた惑星は、まるで木星と土星のようだった

【2008年2月21日 名古屋大学STE研

重力マイクロレンズと呼ばれるひじょうにまれな現象から、まるで木星と土星のような惑星系が見つかった。重力マイクロレンズ法による久々の系外惑星発見だ。私たちの太陽系のような姿をした惑星系は、じつは意外と多いということになってくるかもしれない。


(惑星系の比較)

惑星サイズの想像図。上は私たちの太陽系、下は発見された惑星系。クリックで拡大(提供:Science

宇宙論がお好きな方なら、重力によって空間が曲がるという話を聞いたことがあるだろう。空間が曲がると光の経路が曲がり、像がゆがむ。一般相対性理論で示されるこの現象は「重力レンズ」と呼ばれており、銀河団の強大な重力によって遠方銀河の像が大きくゆがんだ画像は有名だ。しかし重力レンズはこうした大規模なものばかりではない。もっと小規模な、恒星によって背景の恒星が明るく見える「重力マイクロレンズ」という現象もある。

名古屋大学太陽地球環境研究所の村木綏名誉教授、伊藤好孝教授を中心とするMOA(Microlensing in Astrophysics)グループが、μFUNOGLEPLANETグループ等との共同で2006年の3月から4月に重力マイクロレンズを観測したところ、重力源であるレンズ天体に2つの惑星が含まれていることがわかった。重力マイクロレンズ法という一風変わった手法による系外惑星の発見であり、この惑星系は私たちの太陽系に似ているとして2008年2月15日付の米科学雑誌「サイエンス」に掲載された。星の密集した銀河中心付近での発見だった。複数の惑星からなる惑星系はこれまでにも知られているが、重力マイクロレンズ法で複数の惑星からなる惑星系が発見されたのはこれが初めてだ。しかもそれは木星・土星とよく似た質量の惑星だ。

重力マイクロレンズ法の原理は、惑星の重力によって空間が曲がることを利用したものだ。ある恒星(レンズ天体)が背後の恒星(ソース天体)の前を通過すると、背後の星の光はまとまるように曲げられ、観測者からは背後の星が一時的に明るくなったように見える。この現象をとらえたときに、もしレンズ天体となった恒星のまわりに惑星があれば、惑星の重力による微小な増光が加わり、レンズ天体の通過とともに明るさが複雑に変化するのだ。

発見された惑星OGLE-2006-BLG-109LbとOGLE-2006-BLG-109Lcの質量は、それぞれ木星の0.71倍、0.27倍と推定された。木星と土星よりも少しだけ小さい質量の惑星が、木星・土星の半分ほどの軌道をもち、太陽の半分の星の周りを回っている。私たちの太陽系の縮小版ともいえるような惑星系だ。私たちの太陽系のような惑星系の姿は銀河系の中でありふれたものなのか、それとも何か特別な条件の下で形成されたのかを知る手がかりとしても注目される。

私たちの太陽系との比較は以下のとおり。

●質量(木星を1とする)
OGLE-2006-BLG-109Lb 0.71(±0.08)≒ 木星の0.7倍
OGLE-2006-BLG-109Lc 0.27(±0.03)≒ 土星の0.9倍
木星 1
土星 0.30
●軌道半径(天文単位)
OGLE-2006-BLG-109Lb 2.3(±0.2)≒ 木星の0.4倍
OGLE-2006-BLG-109Lc 4.6(±0.5)≒ 土星の0.5倍
木星 5.20
土星 9.55
●公転周期(日)
OGLE-2006-BLG-109Lb 1825(±365)≒ 木星の0.4倍
OGLE-2006-BLG-109Lc 5100(±730)≒ 土星の0.5倍
木星 4333
土星 10759
●中心星の質量(太陽を1とする)
OGLE-2006-BLG-109 0.5(±0.05)
太陽 1

私たちの太陽系では、惑星の総質量のうち、約92%が木星と土星に集中している。太陽系の2大惑星に相当する惑星が見つかったのだとすれば、他にも小さな惑星が存在している可能性がある。また、惑星軌道が半分、中心星の質量も半分ということは、惑星の温度環境が似ていて、地球軌道の半分くらいのところに生命の存在に適した領域があるのかもしれない。いま言えることは、この惑星系にある惑星は「少なくとも2個」ということである。

系外惑星を発見する手法には、惑星の公転周期がわかるドップラーシフト法、惑星の大きさがわかるトランジット法など、いくつかの方法があり、それぞれに長所短所がある。ドップラーシフト法による発見がすでに260個(2008年2月21日現在)もあるのに対して、重力マイクロレンズによる発見はまだわずか6個と少ない。重力マイクロレンズは、レンズ天体がソース天体の前を通過するときにしか起こらない1回きりのまれな現象であり、さらに惑星系を持つものとなると検出確率はひじょうに低い。追観測ができないという欠点もある。しかしながら、小さい質量の惑星や比較的遠い軌道を回っている惑星にも感度があり、ドップラーシフト法に適さないタイプの恒星をも狙えるといった強みもある。将来、重力マイクロレンズ法で地球サイズの惑星が発見される日がやって来るに違いない。

ステラナビゲータ Ver.8で系外惑星の位置を表示

ステラナビゲータ Ver.8では、今回発見された系外惑星が存在する方向を星図に表示させることができます。230個を超える、惑星の存在が確認された恒星を追加天体として「コンテンツ・ライブラリ」で公開しています。ステラナビゲータ Ver.8をご利用の方は、ステラナビゲータの「コンテンツ・ライブラリ」からファイルをダウンロードしてください。