宇宙初期のちりは、クエーサーの「食い散らかし」に由来?

【2007年10月16日 Spitzer News Room

超巨大ブラックホールが正体とされるクエーサーの周囲から、形成されたばかりと思われるちり(ダスト)が見つかった。ちりは、恒星を含むあらゆる天体を形成するうえで欠かせないものである。クエーサーは、誕生したばかりの宇宙においてちりの「生産工場」としての役割を果たしたかもしれない。


(クエーサーから吹く風の中に検出されたちりの想像図)

クエーサーから吹く風の中に検出されたちりの想像図。クリックで拡大(提供:NASA/JPL-Caltech/T. Pyle (SSC))

小さな固体の粒子、ちりは、効率よく恒星を作り出すのに欠かせない存在だ。ガスのかたまりが収縮するのを早めるからである。そこから恒星が誕生すれば、今度は惑星、さらには生命の材料にもなる。

われわれの近辺に存在するちりは、太陽のような星が生産し、一生を終える際に放出したものだと考えられている。しかし、太陽程度の恒星の寿命は100億年。宇宙が誕生してから137億年たっているが、宇宙の年齢が現在の10分の1だったときも、多量のちりが存在したらしい。それはいったいどこで作られたのだろうか?

その起源は長い間、太陽よりはるかに巨大な恒星が起こす超新星爆発ではないかと考えられてきた。しかし一方で、クエーサーもちりの生産に貢献している考える研究者もいた。

クエーサーは、はるか遠方にある割には明るい天体で、銀河の中心にひそむ超巨大ブラックホールが正体なのではないかとされている。取り込まれつつある物質は、超巨大ブラックホールの周囲に円盤を形成しているが、その過程でばく大なエネルギーを生み出して輝いているのである。そのクエーサーが、光だけでなくちりも放出しているかもしれない。

「クエーサーは大食漢ですが、ひどく食い散らかします。消化する以上に多くの物質を噴き出していることもありえます」と米・カリフォルニア大学のSara Gallagher氏は語る。Gallagher氏は英・マンチェスター大学のCiska Markwick-Kemper氏が率いた研究チームの1人だ。

研究チームによれば、円盤の内側ではあまりの高温に粒子はすべて蒸散してしまうが、外側ならちりが形成されて生き残る可能性があるという。実際にクエーサーでちりが形成されているか検証するために、研究チームはこうま座の方向約80億光年の距離にあるクエーサー「PG2112+056」をスピッツァーで観測した。

スピッツァーのデータからは、さまざまな種類の微粒子が見つかった。ガラス、石英、さらにはルビーやサファイアを構成する鉱物である。このうち「ガラスのちり」が見つかったのは予想どおりだったが、ほかの鉱物が見つかったのは驚きだった。石英などの鉱物は整った結晶構造をしているが、長い間宇宙空間で電磁波にさらされることで構造は失われ、ガラスのような非晶質(アモルファス)になる。つまり、石英やルビーやサファイアを構成する鉱物が見つかったというのは、それらの微粒子が形成されたばかりであることを意味する。

今回観測されたクエーサーは、宇宙が誕生してから50億年以上経過したころのものである。そのため、宇宙初期のちりがクエーサーに由来すると断定できるわけではないし、唯一の供給源とも限らない。「ある環境でちりが生まれるときは、超新星爆発のほうが重要な役割を果たしたかもしれませんし、別の環境ではクエーサーの方が重要だったかもしれません」とMarkwick-Kemper氏は語る。「今のところは、何十億年も離れたクエーサーから、複数の種類のちりを判別できたことに興奮しています」