日米の天文衛星、隠れていた巨大ブラックホールを明らかに

【2007年8月3日 京都大学 ニュースリリース

日本のX線天文衛星「すざく」とNASAの天文衛星「スウィフト」の観測で、一見平凡な銀河の中心に埋もれていた巨大ブラックホールが見つかった。今回の発見は、中心核にばく大なエネルギーを生み出す巨大ブラックホールを持ちながら、それを隠したままの銀河が多いことを示唆している。


(ESO 005-G004の周辺の可視光画像に、「すざく」搭載X線CCDカメラで得られた画像の等高線(緑)を重ねた図)

ESO 005-G004周辺の可視光画像に、「すざく」搭載のX線CCDカメラで得られたX線強度の等高線(緑)を重ねた図。クリックで拡大(提供:(可視光画像)STScI Digitized Sky Survey)

(ESO 005-G004の中心核にある巨大ブラックホール周囲の想像図)

ESO 005-G004の中心核にある巨大ブラックホール周囲の想像図。まわりを囲む物質は「ドーナツ」よりも「殻」に近く、ほとんどの光がさえぎられている(提供:JAXA)

銀河の中には、中心核がひじょうに明るいものがある。そこからは可視光だけでなく、電波からX線にいたるまでさまざまな波長の電磁波が放出され、「活動銀河核(AGN)」と呼ばれており、放射エネルギーは太陽の100億から100兆倍にもなる。AGNを輝かせるのは、太陽の100万倍から10億倍の質量をもつ巨大ブラックホールだ。ブラックホール自身は決して光を発しないが、飲み込まれるガスは超高温になるため、明るく輝くのである。

AGNは「宇宙でもっとも明るい天体」とさえ言われ、宇宙の歴史を研究する上で欠かせない。そのため、無数のAGNが観測され、さまざまなタイプに分類されてきた。しかし、これまでのAGN探しは重要なものを見落としていたかもしれない。

京都大学、愛媛大学およびNASAから成る国際共同チームは、「すざく」と「スウィフト」を使って、新しいタイプのAGNを見つけたと発表した。

現在考えられているAGNのモデルは、巨大ブラックホールをガスとちりが巨大なドーナツのように取り囲んでいるというものだ。もしドーナツの「穴」がわれわれのほうを向いていれば、電磁波は直接届く。「ドーナツ」を横から見る場合でも、ドーナツの「穴」から放射された強力な電磁波が周囲のガスに当たり、結果として輝くガスを観測できるだろうとされていた。

これまでの「AGN探し」は、この前提で行われてきた。「ドーナツ」を横から見る場合も、周囲のガスは波長が長い(=エネルギーが比較的低い)X線で輝いているはずである。「硬X線(波長が短い=エネルギーの高いX線)」の観測には技術的困難が伴い、ほとんど行われていない。

ところが、硬X線およびガンマ線(X線よりもさらに波長が短い電磁波)の観測に強い「スウィフト」は、これまでAGNが見つかっていない方向から硬X線を検出した。幅広い波長のX線を同時観測できる「すざく」は、このうち2つの天体を観測した。それぞれ、はちぶんぎ座の方向約8000万光年の距離にある銀河「ESO 005-G004」と、ほうおう座の方向約3億5000万光年の距離にある銀河「ESO 297-G018」と重なる。

2つの天体からは硬X線がはっきりと検出された一方、周囲のガスが発する低・中エネルギーのX線は極端に弱かった。実は、硬X線は透過力が高いため、分厚い物質の雲をくぐり抜けることができる。ESO 005-G004とESO 297-G018には、隠れているだけで確かに巨大ブラックホールがあるはずだ。では、なぜ低・中エネルギーのX線はほとんど出てこないのだろう。

これらのAGNは、「ドーナツ」どころか全方位をさえぎるガスとちりの「殻」に包まれている、とする考えが有力だ。硬X線以外の電磁波は外に出られないので、周囲のガスも輝くことはない。

AGNを取り巻くガスが極端に薄いという説もある。ドーナツの「穴」から光がもれても、照らすガスがなければ、何も見えない。

いずれにせよ、これまでの捜索からもれていたAGNがあることは、重大な事実だ。硬X線は宇宙のあらゆるところから届いていて、「硬X線背景放射」と呼ばれている。そのうち最大で2割が、今回のように隠れていたAGNから放射されている可能性がでてきたというのである。

AGNは、巨大ブラックホールや銀河の成長、ひいては宇宙の歴史を知る上で重要な天体である。今回の発見は、硬X線も用いた偏りのない「AGN探し」をうながすものと言える。