系外惑星からのスペクトルが初めて測定された
大気の分析、本格的に

【2007年2月22日 Spitzer News Room

NASAの赤外線天文衛星スピッツァーによる観測で、系外惑星のスペクトルが恒星のスペクトルから分離され、大気の成分が初めて直接調べられた。大気中に「何が有るか」だけではなく、「何が無いか」もわかるようになり、ある重要な物質が無かったことに研究者たちは驚いている。


(HD 189733bの想像図)

HD 189733bの想像図。厚いちりの層が、存在するはずの水やメタンを覆い隠していると研究者たちは考えている(提供:David A. Aguilar (CfA))

(スペクトルの引き算)

「スペクトルの引き算」を説明する概念図。クリックで拡大(提供:NASA/JPL-Caltech/R. Hurt (SSC))

スピッツァーによってスペクトル(解説参照)が明らかにされた系外惑星は、ペガスス座の方向153光年の距離にある「HD 209458b」とこぎつね座の方向63光年の距離にある「HD 189733b」で、それぞれ別の研究グループによって観測された。

今や200を超える系外惑星の中でも、HD 209458bとHD 189733bは研究者にとって屈指の存在だ。どちらの惑星も、われわれから見て公転面が真横を向いているため、公転するたびに恒星の前を横切る「トランジット」を起こす。トランジットが見られる系外惑星はわずか14個で、その中でもHD 209458bは最初に発見され、HD 189733bは太陽に一番近い。また、どちらも木星のような巨大ガス惑星で、2、3日で公転するほど恒星に近い「ホットジュピター」である。

系外惑星からの光を恒星から分離し、大気の成分を調べようとする試みは以前から進められてきた。ただし、系外惑星はあまりに恒星に近いため、両者を2つの独立した天体として撮影することは不可能だ。

トランジットの際、恒星からの光は惑星の大気を通過する。その際、どの波長の光が吸収されたのかを調べれば、対応する成分の存在がわかる。この方法を使って、2001年にNASAのハッブル宇宙望遠鏡が系外惑星として初めてHD 209458bに大気を発見し、その後の観測で酸素や炭素が存在することや加熱されたガスが宇宙空間へ逃げ出していることなどが明らかにされている。

しかし、この方法で観測しているのはあくまで恒星の光である。惑星の大気の「影」から正体を探ろうとするようなものだ。惑星からの光そのものを得るには、逆説的だが、惑星が見えないときに観測する必要がある。惑星が恒星の横にある状態と、恒星の陰に隠れた状態をそれぞれ撮影し、引き算すれば惑星の光だけが得られる。しかし、恒星の光が圧倒的に明るいので、これほど難しい引き算はない。

それが初めて実現したのも、HD 209458bで、2005年にスピッツァーが達成した。このときは、1つの波長でしか観測しなかったため、大気の成分は調べられなかった。

このように、今回の発表は専門家にとっての悲願を達成したと言えるが、2つの惑星から得られたスペクトルは従来の予測を根本から覆すものだった。それは水が見つからなかったことである。もちろん、ホットジュピターにおいて液体の水は完全に蒸発してしまうが、理論的に計算してみれば、水は水蒸気として大気に含まれるどころか、スペクトル中で一番目立つほど豊富に存在するだろうとされていた。ほかにも、メタンなどの「あるはず」だった分子が見つからなかった。

その原因を示唆するもう1つの特徴が、HD 209458bのスペクトルにあった。ケイ酸化合物、つまりちりの存在だ。HD 209458bやHD 189733bは太陽系のどの惑星よりも黒いだろう、と研究者の一人は語っている。ちりのベールに包まれて、内側の水などは隠されているのかもしれない。

今回わき起こった疑問は、さらなる観測を通じて解決するしかない。ひとまずは、この研究によって系外惑星の「空気をかぐ」ことができる時代が始まった。

スペクトル

電磁波を波長(振動数)で分けたもの。分光器で電磁波を分離して得られる。身近な例では、可視光線をプリズムや回折格子に通すと、色(波長)によって光の成分が虹色に分離できる。分光によって得られた光を分析することによって、さまざまな天体の構成物質の種類や状態を調べることができる。スペクトルを研究する分野を天体分光学という。(「最新デジタル宇宙大百科」より)