【インタビュー】大彗星の発見者、マックノート氏

【2007年1月18日 アストロアーツ】

アストロアーツニュース編集部は、統計史上2番目の明るさとなったマックノート彗星(C/2006 P1)の発見者、マックノート氏(Robert H. McNaught)にインタビューを行い、今回の発見についてコメントをいただきました。発見したときの感想だけでなく、「日本人に生まれるべきだった!」とまでいうほど日本人観測者たちへの関心とあこがれが強いことも教えていただけました。


(南半球に登場したマックノート彗星(C/2006 P1))

南半球に登場したマックノート彗星(C/2006 P1)。1月17日、オーストラリアのタスマニア島で撮影された

マックノート氏は1956年スコットランド生まれの天文学者で、現在はオーストラリア国立大学のサイディング・スプリング天文台で太陽系小天体の捜索などに携わっています。これまでに発見した小惑星は300個以上、彗星は30個以上にものぼります。また、2001年のしし座流星群大出現をアッシャー氏(David J. Asher)とともに予測したことでも知られています。

マックノート彗星(C/2006 P1)は2006年8月7日、サイディング・スプリング天文台のウプサラ50センチメートルシュミット望遠鏡による写真から見つかりました。

マックノート氏へのインタビュー内容

※翻訳と注釈はアストロアーツニュース編集部による

− C/2006 P1を発見されたとき、ほかの発見と比べてとくに感じられたことはありますか?

新しい天体、とくに彗星を発見したときは、いつもぞくぞくするような気分です。ひょっとすると、見応えのある明るい彗星になるかもしれませんからね。

私が初めて彗星を発見したのは1987年のことでしたが、すでに明るかったのでとてもわくわくしました(注1)。1時間ほどで、発見前に撮影していた写真から彗星の軌道が求まりました。

発見したときの興奮は、当時の方が大きかったかもしれません。

− C/2006 P1が明るくなることがわかったとき、どう思われましたか。

[発見から]1日か2日経つと、彗星の近日点(注2)距離が小さいことがわかりましたが、明るくなるとは誰も思っていなかったようです。近日点を通過する前に[太陽の熱で]消滅してしまうだろうと言う意見も多く、昼間に肉眼で見える可能性など、ほんの少しでも考えた人はいないでしょう。

観測を継続していた私たちからすれば、かなりいらだちを覚える話でした。彗星が急速に増光していて、太陽に接近しても壊れないくらい核が大きいことを示す結果を得ていたからです。

とはいえ、結局私は彗星の光度に関する専門家ではないので、あまり批判的になってもしかたありません。何しろ彗星は気まぐれですから。

− 驚異的な数の彗星を発見されていますが、発見のコツは何でしょうか?

間違いなく、この16年間彗星探しを仕事にしてきたことですね!

私は20倍120ミリメートル双眼鏡や32センチメートル反射望遠鏡を使って、数百時間にもおよぶ眼視観測を行っています。

一方で、自動検出ソフトウェアを利用するチームに所属していると、アマチュア観測者たちの英雄的な努力に比べて、地味ながらも楽に彗星を発見できます。私が一緒に仕事をしているアリゾナ大学のチーム(注3)はとても優秀です。

− 日本の観測者たちへコメントがございましたらお願いします。

私は1969年、13歳のときにスコットランドでベネット彗星(注4)を見ました。それ以前からも彗星に興味があったのですが、ベネット彗星について本で読んで、絶対に見ようと思ったのです。その光景は、実に壮観でした。

十代のころアマチュアによる新天体発見に関心を持ちました。間違いなく思ったのは、「発見者になるチャンスがほしかったら、日本人に生まれるべきだった!」ということですね。日本のアマチュア観測者による一連の彗星や新星の発見は驚異的でした。それぞれの発見、発見者とそのテクニックについては片っ端から調べたものです。

同じ頃、英国ではオルコック氏(注5)が多くの新天体発見を成し遂げていて、ハースト氏(注6)が新天体発見のためにアマチュア観測者たちを結集していました。

私自身がやろうとしていたことは、本田実氏(注7)と近かったように思います。彼の成果もまた、あこがれの対象でした。初めて小惑星に名前をつけるとき、彼に敬意を表して“Honda”(注8)と名付けたのです。

注釈

  1. C/1987 U3。記録によれば、カメラレンズによる写真発見で光度9等だった
  2. 天体の軌道上で太陽に一番近い位置
  3. サイディング・スプリング天文台は米国アリゾナ大学のカタリナ・スカイ・サーベイ(CSS)に参加している。CSSは地球に接近する小惑星や彗星を捜索するプロジェクト
  4. C/1969 Y1, Bennett。南アメリカのベネット氏が1969年に発見し、翌年の近日点通過前後で肉眼彗星となった。20世紀を代表する大彗星だったが、マックノート彗星(C/2006 P1)の最大光度はベネット彗星をも超えている
  5. George Alcock(1912-2000)。英国の天文観測者で多数の彗星や新星を発見。アイラス・荒貴・オルコック彗星が有名
  6. Guy Hurst。英国の天文雑誌"The Astronomer"の編集者。1976年に新星・超新星捜索のパトロール体制を築くなどプロとアマチュアの連携に尽力
  7. ほんだ・みのる(1913-1990)。戦前から彗星の捜索を熱心に行い、戦後の混乱期に相次いで新彗星を発見し日本の天文学界を活気づけた。1970年ごろからは新星の発見で活躍した
  8. 小惑星(3904) 本田