Ia型超新星にも2つの型が存在?

【2006年10月11日 Berkeley Lab News

恒星の最期ではなく、白色矮星が暴走的核融合を起こすことで発生するのが「Ia型超新星」である。性質が一定であることから、遠くの銀河までの距離を測るのに使われ、現代天文学を支えてきた。しかし、従来とは異なるタイプのIa型超新星が現れたことで、すべての前提が揺らぐ可能性もある。


Ia型超新星 SNLS-03D3bbの画像

Ia型超新星 SNLS-03D3bb、(左)最高光度に達する前、(右)最高光度時。クリックで拡大(提供:Berkeley Lab News)

超新星という天体が認識されて以来、天文学者はそれらを細かく分類してきた。まず、超新星爆発の光のスペクトルから水素が検出されるか否かで「I型」と「II型」に分け、さらに「I型」の中にもさまざまなタイプのスペクトルがあることから、それぞれ「Ia型」「Ib型」「Ic型」とした。中でも、「Ia型超新星」は他のI型やII型とはまったく正体が異なると考えられている。ところが、もはや細分されきったかに見えたIa型も、さらに分ける必要が出てきたようだ。他のIa型とまったく異なる特徴、そしておそらく、異なるメカニズムで形成された超新星SNLS-03D3bbが観測されたからだ。

このSNLS-03D3bbは、水素やケイ素などのスペクトルの特徴から、爆発前の正体が白色矮星である「Ia型超新星」と分類された。しかし、普通のIa型超新星に比べ2倍以上明るいことが明らかとなった。すべてのIa型超新星の特徴が一様なのは、大質量星の最期の大爆発である他のタイプの超新星と違い、白色矮星にガスが降り積もることによる爆発であるためだ。白色矮星の質量には太陽のおよそ1.4倍という質量の限界(チャンドラセカール限界)があり、伴星からガスが流れ込んでこの限界を突破してしまうと、白色矮星は自分の質量を支えきれなくなるのである。

爆発寸前のIa型超新星はどれも同じ「チャンドラセカール限界の白色矮星」なのだから、特徴が同じなのも当然である。たまに光度の明るいIa型が存在するが、この場合は明るくなるまで時間がかかっているだけで、時間と光度でグラフを書いた場合、タイムスケールを一致させればどのグラフも重なるし、爆発が非等方なら、違う角度から爆発を見ることで明るさが多少変わることもじゅうぶん考えられる。

しかし、SNLS-03D3bbの異質さはその程度では説明できない。一般に明るいIa型超新星爆発ほど爆発の広がる速度は速いが、2倍明るいSNLS-03D3bbの拡散速度は遅い。これを説明するには、元の質量が大きかったと考えるしかなく、結果的にSNLS-03D3bbとして爆発する前の白色矮星は、チャンドラセカール限界質量の1.5倍あったことになるというのだ。

なぜ、チャンドラセカール限界を突破した白色矮星が存在できるのだろうか。2つの可能性があげられている。1つ目は、チャンドラセカール限界があくまで「回転しない球」という仮定の元で導かれた量であることから、白色矮星が高速回転していたというもの、2つ目は、SNLS-03D3bbは普通のIa型超新星のように、伴星からガスが降り積もったのではなく、2つの白色矮星が融合したものだという説だ。

どうも、後者の説がもっともらしいようだ。その根拠は、Ia型超新星が存在する銀河が若い銀河と年老いた銀河の2種類に分けられることから明らかにすることができる。年老いた銀河には質量の大きな恒星はほとんどないため、Ia型超新星が起きるとすれば、白色矮星に(白色矮星より小さな質量の)伴星からガスが流れ込むという従来型のメカニズムが考えられる。一方、若い銀河では、より質量の大きな恒星がたくさん誕生している。そのため白色矮星はもちろん、白色矮星どうしの連星系、ひいては白色矮星融合型の超新星爆発も珍しくないはずと考えられるわけだ。

若い銀河が存在するのは、遠方の初期宇宙だ。しかし、これまで距離を決定するのに使われてきたものの1つは、他ならぬIa型超新星自身である。Ia型超新星は絶対光度などの性質が一定であるという前提のもと、Ia型超新星が起きた銀河までの距離が測定され、宇宙膨張が加速していることが明らかとなった。Ia型超新星に複数のタイプが存在するとなれば、宇宙論の根幹にかかわる問題となる。観測データの集積と計算機シミュレーションに基づいたIa型超新星の正確なモデル構築が重要な課題とされている。