恒星心中物語 − 冷めた星は、熱きパートナーから逃れられない

【2006年8月15日 ESO Science release

相方の恒星に飲み込まれそうになりながら、何とか脱出するという、数奇な運命をたどったであろう褐色矮星が発見された。その相方は、今や褐色矮星よりも小さな白色矮星になっている。しかし、もう一度吸収してしまおうと、少しずつ褐色矮星を引き寄せているらしい…。


(連星系の想像図)

連星系WD0137-349とその伴星の想像図。クリックで拡大(提供:ESO)

(惑星質量天体連星の想像図)

褐色矮星が赤色巨星に飲み込まれていく様子のシミュレーション。リリース元では動画も公開されている。クリックで拡大(提供:Steven Diehl, Chris Fryer, Falk Herwing, and Gabriel Rockefeller/LANL/ESO)

はるか昔のこと、あるところに星のペア(連星)がいた。2つの星はそれぞれ、太陽と同じ程度の大きさの恒星と、木星の数十倍の質量を持ちながらも核融合反応が起きずにくすぶっている「褐色矮星」だ。熱く燃える星と、冷めた星。両者は十分に離れていて、重力でお互いの周りを回り続ける以外には特に干渉しあうこともなかった。

しかし、2つの星には悲しい宿命が待ちかまえているのであった…。

大きい方の星に、恒星としての死を迎えるときが来てしまった。中心付近で、輝くための燃料となる水素を使い切ってしまうと、外層が膨張するようになる。赤色巨星と呼ばれる段階だ。あまりに大きく膨れあがった星は、なんと、パートナーである褐色矮星を飲み込んでしまった。これは褐色矮星にとって存亡の危機である。直に熱せられることで、表面の物質は少しずつ蒸発していってしまう。何より、それまでは真空空間を走り回っていたのに、いまや「ガスのプール」を泳ぎ回らなくてはいけなくなったので、勢いを失って少しずつ赤色巨星の中心へと引きずり込まれてしまうのだ。

あわや無理心中か、というところで、褐色矮星は踏みとどまった。吸収されてしまう前に、赤色巨星の外層が完全に吹き飛んだのだ。中心には褐色矮星よりも小さなサイズの、しかし太陽に近い質量を持つ白色矮星だけが残された。

以上が、白色矮星WD0137-349とその伴星をヨーロッパ南天天文台(ESO)のVLTで観測した科学者が考える両者の歴史だ。褐色矮星の質量は木星の55倍だが、もしも20倍しかなかったら蒸発してしまった可能性が高い。両者の現在の距離は、太陽の半径の3分の2(太陽から地球までの距離の1パーセント未満)しかなく、褐色矮星は1周2時間、時速80万キロメートルという高速で振り回されている。まさに、ぎりぎりのところで命拾いしたのだ。

しかし、まだ悲劇は終わっていない。恒星は白い亡者になってもなお、相方を食い殺してしまおうという恐ろしい執念を見せているのだ…。

アインシュタインの一般相対性理論によれば、両者の距離は今後も徐々に縮まってしまい、14億年後には公転周期が1時間強にまでなる。あまりの近さに、今度は褐色矮星の外層が白色矮星に吸い取られるだろう。どのみち、褐色矮星は相方のアプローチから逃れられない運命にあるようだ。