公転周期5分の連星

【2002年3月28日 国立天文台天文ニュース(537)

公転周期がたった5分しかない連星が発見されました。これは、いままでに発見されている連星の中ではもっとも周期の短いもので、強いX線を放射しています。

この連星は、はじめは単なるX線源として、ドイツのX線観測衛星ROSATにより1994年に「かに座」で発見されました。そしてRX J0806.3+1527という何の面白味もない符号が付けられました。1999年に、このX線源が321秒の周期で強度変化をしていることがわかりました。周期のほぼ半分の時間は、X線の信号がほとんど消えてしまうのです。

その理由を探るため、まずNASAのX線観測天文台チャンドラで詳細な観測がおこなわれ、一方、チリ、バラナル山天文台の8.2メートルVLT望遠鏡などで光学観測も実施されました。このX線源は、実視等級21.1等で、暗いながら可視光も出しているのです。スペクトル観測からは、この星に大量のヘリウムの存在することが明らかになりました。

これらの観測事実を説明するものとして、さまざまな考え方が検討され、結局、白色わい星同志の連星であるという結論が出されました。ほぼ地球くらいの大きさの二つの白色わい星が、約8万キロメートル離れ、周期321秒で回りあっている。二星は月のように自転と公転の周期が一致していて、いつも同じ面を向け合っている。大きい方の星は小さい星から物質を吸い取り、その物質は大きい方の白色わい星に高速で衝突し、その表面を25万度の高温に加熱してホットスポットをつくり、そこからX線が出る。これが考えられているモデルです。すると、X線が途切れるのは、自転によってホットスポットが地球から見て向こう側になった時間に対応します。こうして、周期ほぼ5分の、白色わい星同志の連星の存在が推定されたのです。

この連星の相対速度は、毎秒1500キロメートルにも達します。このように急速に公転している大質量の星からは、かなり強い重力波が出ているはずです。現在、重力波を検出する努力が各国でおこなわれていますが、これまで、確実に捕らえたという報告はありません。しかし、この連星からの重力波は、ヨーロッパ宇宙機構が約10年後に打ち上げを予定している宇宙レーザー干渉計リサ(Laser Interferometer Space Antenna;LISA)によって検出できる可能性があります。銀河系の中には、ここで述べたような連星は何千個もあると思われますが、「このRX J0806.3+1527はもっとも近く、もっとも明るい」と、リサ計画のリーダーであるカリフォルニア工科大学のフィニー(Phinney,E.S.)は述べています。

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