銀河ハロー部を高速で移動するブラックホール

【2001年9月14日 STScI-PR01-29 (2001.09.12)2001.09.17 update

2000年3月29日にX線観測衛星 Rossi X-ray Timing Explorer (RXTE) により「おおぐま座」に発見された XTE J1118+480 と呼ばれる天体 (VSOLJニュース039を参照) が、銀河系ハロー部 [*] に位置するブラックホール連星であることがわかった。また、超長基線電波干渉計VLBA (Very Long Baseline Array) による観測とデジタイズド・スカイ・サーベイ (Digitized Sky Survey; DSS) のデータから、秒速145キロメートルもの高速で移動していることが判明した。銀河系ハロー部でブラックホールが発見されたのも、ブラックホールの固有運動が測定されたのも、初めてのことであり重要な発見である。

[*] 銀河系ハロー: 銀河系では、ほとんどの天体が薄い円盤状の領域 (銀河円盤) に集中している。この銀河円盤を離れ、銀河系を球形にとりまく領域を銀河系ハローという。この領域では、天体の平均密度が低く、古い恒星の集まりである球状星団が散在している。

この天体は、太陽の7倍程度の質量のブラックホールと通常の恒星との2連星で、恒星から放出された物質がブラックホールに落ち込む際にX線が放出される。太陽系からの距離が約6000光年と比較的近かったため、固有運動が測定できることが期待された。

まず、2000年5月と2000年7月の2度に渡ってVLBAによる観測が実施された。VLBAは、ハワイからフロリダまでのアメリカ各所に設置された、計10基の25mアンテナから構成される観測システムで、きわめて高精度で天体の位置を測定することができる。これらの観測により、天体のおおよその移動量がわかった。

XTE J1118+480 の軌道
XTE J1118+480 の軌道
Credit: A. Feild (STScI)
このデータをもとにデジタイズド・スカイ・サーベイ――パロマ―天文台による写真乾板とUKシュミット望遠鏡による写真乾板をデジタル化した巨大なデータベース――のデータと照合を行なったところ、パロマー天文台による写真乾板上に記録されていた天体と同定することに成功し、この天体の43年間での移動量が判明した。

この天体は今から数十億年前、銀河系の形成初期に、銀河ハロー部の球状星団で形成され、その後に球状星団から遊離したものと推定されている。多くの球状星団と同様に、銀河系の中心部と外縁部を行ったり来たりする軌道にあると考えら、現在たまたま太陽系の比較的近くに位置している。伴星である恒星はブラックホールに同伴して球状星団から遊離したものと考えられ、ひじょうに長い期間にわたってブラックホールに物質を吸収されつづけたため、今では太陽の3分の1程度の質量しかない。

銀河系の形成初期には、多数の短命の超巨星が超新星爆発を起こして、数十万個のブラックホールが形成されたと考えられている。今回発見されたブラックホールは、そのような太古の超巨星の名残りだとされ、銀河系の初期を解き明かすための重要なカギとして注目される。

なお、このブラックホールと連星系をなす恒星が増光したようすは光学望遠鏡でも観測可能な明るさだった。そのため、VSNETチームに可視光観測の確認が呼び掛けられ、日本の観測者が光学天体の同定や変光の観測に活躍した(VSOLJニュース039を参照) 。

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