M33の中心に巨大ブラックホールは存在しない

【2001年9月13日 国立天文台天文ニュース (476)

われわれ銀河系の近傍にある渦巻銀河M33の中心に、巨大ブラックホールは存在しないことが確かめられました。

銀河中心に巨大ブラックホールが存在するという説はあちこちで述べられ、それを確認する観測結果もあちこちで得られています。たとえば、銀河M106には太陽質量の3900万倍のブラックホールがある、またIC2560には同じく280万倍のブラックホールがある(天文ニュース465)という証拠が得られました。ごく最近、われわれの銀河系の中心にも巨大ブラックホールが存在することを確認する観測をしたとマサチューセッツ工科大学が発表しています。このような観測から、銀河の中心には太陽質量の数万倍から数億倍にのぼるブラックホールが存在するとの考え方が広まったのです。銀河中心にあると考えられるこのように巨大な質量のブラックホールを、超巨大ブラックホール(Supermassive Black Hole;SMBH)といいます。

それでは、すべての渦巻銀河の中心に超巨大ブラックホールがあるのかというと、必ずしもそうではないようです。アメリカ、ニュージャージー州、ラトガーズ大学のメリット(Merritt,D)たちは、ハッブル宇宙望遠鏡による観測で、M33の中心にSMBHは存在しない。ブラックホールがあるとしても、せいぜい太陽の3000倍程度であるという発表をしています。

ブラックホールは光すら出ることができない天体ですから、その存在を直接に見ることはできません。したがって、そこに落ち込む物質の出すX線を観測する、あるいはその周囲を回る恒星や円盤の回転速度を測定するなどの間接的証拠を積み上げることで、その存在を推定しかありません。メリットたちは、1999年2月に、ハッブル宇宙望遠鏡の撮像スペクトログラフ(Space Telescope Imaging Spectrograph;STIS)によって、これまでに得られていたものより10倍以上の分解能で8561Aのカルシウム吸収線付近のスペクトル観測をおこない、それによって中心を取り巻く星の集まりの視線速度やその分散を調べたのです。しかし、そこには、超巨大ブラックホールがある場合に期待される、中心に近付くにつれて視線速度が急激に増加する状況は認められませんでした。観測データを解析した結果得られた結論は、仮にブラックホールが存在するとしても、その質量は太陽のせいぜい3000倍しかないというものでした。こうして、すべての銀河に超巨大ブラックホールがあるとは限らないことが結論付けられたのです。

<参照>

  • Merritt,D. et al., Science 293, p.1116-1118(2001).

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