M88の近くの矮新星、AL Comが6年ぶりのアウトバースト

【2001年5月19日 VSOLJニュース (059) 2001.05.19】

5月18日、京都大学の運用する国際変光星ネットワーク(VSNET)に入った情報によれば、オーストラリアの Steve Kerr かみのけ座AL星 (AL Com) の増光を発見しました。AL Com は天体写真でも有名な渦状銀河M88のごく近くに位置し(たまたま重なって見えているだけです)、この銀河の超新星と誤認されたこともある天体です。

この天体の何よりも大きな特徴は、アウトバーストの頻度が非常に低いことです。この天体は前回は1995年4月にアウトバーストしましたが、その前に知られている確かなアウトバーストは1976年まで遡らねばならず、1995年のアウトバーストが起きるまでは多くの観測者にとって長い間「幻の天体」でした。またアウトバーストの振幅も非常に大きく、増光を起こしていない静穏状態では20.8等と報告されていますが、アウトバーストを起こすと8等級も明るくなります。このような大きな増光は、まるで新星に匹敵するものです。しかし、この天体は新星のような核爆発現象ではなく、近接連星中の白色矮星をとりかこむ降着円盤から、白色矮星に急激にガスが落下することによって起きる、重力エネルギー開放型の激変天体です。
 同様の機構でエネルギーを開放する天体としては、ブラックホール連星などがよく知られています。このような機構の違いから、AL Comは新星とは異なり矮新星に分類されますが、増光の大きさやその持続時間は、新星に匹敵する珍しい天体と言えるでしょう。AL Com のような天体では、爆発中に周期が1.3時間程度の短時間変動が観測されることが知られていて、スーパーハンプと呼ばれますが、この詳しい観測をすれば、これらの天体の正体により詳しく迫ることができます。VSNETではこの国際共同観測をすでに開始していますが、20cmぐらいの望遠鏡でもCCDを取り付けて連続測光(30-60秒ぐらいの露出時間の画像を、できる限り多く、できる限り長時間撮りつづける。観測時刻の記録は秒まで正確に)することで、この国際観測キャンペーンに参加できます。興味をお持ちの方はどうぞお問い合わせください。

これまでに報告されている光度は以下の通りです。< は天体が見えなかったこと(上限値)を示します。

 年 月 日(UT) 等級  観測者
2001 05 09.962 <15.4 (M. Reszelski, ポーランド)
2001 05 11.922 <13.9 (E. Muyllaert, ベルギー)
2001 05 11.940 <13.9 (H. McGee, イギリス)
2001 05 12.917 <15.4 (M. Reszelski)
2001 05 12.928 <13.9 (E. Muyllaert)
2001 05 12.955 <13.9 (H. McGee)
2001 05 12.960 <15.5 (C. P. Jones, イギリス)
2001 05 13.017 <15.5 (G. Poyner, イギリス)
2001 05 13.235 <13.9 (M. Simonsen, カナダ)
2001 05 13.410 <13.5 (R. Stubbings, オーストラリア)
2001 05 13.501 <13.9 (H. Itoh, 日本)
2001 05 13.939 <14.8 (P. A. Dubovsky, スロバキア)
2001 05 14.481 <13.5 (R. Stubbings)
2001 05 14.867 <15.4 (M. Reszelski)
2001 05 14.887 <14.8 (P. A. Dubovsky)
2001 05 15.515 <13.5 (R. Stubbings)
2001 05 16.887 <15.4 (M. Reszelski)
2001 05 16.917 <13.9 (E. Muyllaert)
2001 05 16.921 <14.8 (P. A. Dubovsky)
2001 05 16.965 <15.5 (G. Poyner)
2001 05 17.898 <15.4 (M. Reszelski)
2001 05 18.510 13.4 (S. Kerr, オーストラリア、発見)
2001 05 18.882 12.9 (E. Muyllaert)
2001 05 18.902 12.8 (C. P. Jones)

過去の情報は以下にあります
http://www.kusastro.kyoto-u.ac.jp/vsnet/DNe/alcom1.html

AL Comの位置は J2000.0 分点で 12h 32m 25s.90, +14o 20' 42".5 です。

著者 :加藤太一(京大理)
連絡先:tkato@kusastro.kyoto-u.ac.jp

M88の位置 M88の位置
(クリックで拡大)

<参照>

  • 国際変光星ネットワーク(VSNET)

<関連>