イリジウム衛星群、結局運行継続へ!?
【2000年11月17日 FLORIDA TODAY Space Online / Iridium Satellite LLC news release (2000.11.16)】
Iridium Satellite LLC社が11月16日発表したところによると、アメリカ南部破産審査裁判所 (ニューヨーク) は11月16日、Iridium Satellite LLC社がIridium LLC社の現存の資産の全てを買い取るという提案に合意した。
この合意の下、Iridium Satellite LLC社は、イリジウム衛星群、地上通信網、物的所有権、知的所有権などのIridium LLC社が所有するあらゆる資産を買い取る。
Iridium Satellite LLC社は、政府向けの衛星通信サービスを継続するとともに、衛星通信を必要とする顧客――政府、軍事、人道活動、重工業、海運、航空、冒険――を対象に手ごろな価格での衛星通信サービスを60日以内に提供開始する。
Iridium Satellite LLC社の会長は、航空工業界でのベテランDan Colussy氏。Colussy氏は、UNC社の会長・社長・CEO (最高経営責任者)、Canadian Pacific Airlines社の会長・社長・CEO、Pan American World Airways社の社長・COO (最高執行責任者) である。
Iridium Satellite LLC社は、衛星群の運行のためボーイング社と契約済みである。
またMotorola社は、商業的に可能な期間のうちは端末機の提供を続けることに合意済みである。
Iridium LLC社は、50億ドルを費やし1998年秋から66基のイリジウム衛星群による全地球規模の衛星携帯電話サービスを開始したが、高価な端末と通信料から利用者が伸び悩み、1999年8月には44億ドルの負債を抱え、破産法による保護を申請。そして今年初めにはサービスを停止した。
その後何度か買収の話はあったが、どれも合意に達することは無く、衛星は全て地球大気圏への指令突入により破壊される見通しとなっていた。
このイリジウム衛星群の今後は、天文に関わる人々にとっても大きな関心事である。
イリジウム衛星の通信は、電波天文学においてOH(ヒドロキシル・ラジカル)の観測に用いられる1612MHz帯と干渉してしまうため問題となっていた。OHの観測は、彗星からの蒸発成分の分布観測や、恒星の誕生や死の観測手段だ。
また、天文ファンの間では、イリジウム衛星は数が多いため、衛星の通信アンテナや太陽電池パネルに反射された太陽光がたまたま地上の観測者に直接当たったときに、数秒間だけ明るい光点が観測される「フレア」と呼ばれる現象がよく見られることで有名。特に、イリジウム衛星の場合、通信アンテナが太陽光を強く反射するため「フレア」は明るく、条件が良ければ最大でマイナス8等級という鮮烈な輝きが見られる。
この「フレア」は、光害の少ない高原に出かけて天体写真を撮影している天文ファンの間では、天体写真の見栄えを害する悪玉として嫌われてきたが、一方で、明るいため都会でも容易に観測できることから、都会の天文ファンには人気のある人工天体である。
二転三転し続けているイリジウム衛星問題だが、今回の買収にて最終決着と見てよいのかどうかは何ともいえない。ただ、いいかげんに決着して欲しいということが天文ファンみんなの意見だろう。
<関連リンク>
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