ハッブル、ひじょうに遠方の星形成銀河を観測成功

【2000年9月7日 ESA SCIENCE - HUBBLE NEWS & PHOTO RELEASES (2000.9.6)

ヨーロッパ宇宙機関(ESA)は、ハッブル宇宙望遠鏡(HST)により撮影に成功した、ひじょうに遠方の星形成銀河の画像を公開した。

ハッブルによる遠方星形成銀河J1/J2

画像左下がその銀河で、「SMM J14011+0252」または「J1/J2」と呼ばれている。ハワイのジェームズ・クラーク・マックスウェル電波望遠鏡のSCUBA(Sub-millimetre Common User Bolometer Array)と呼ばれるサブミリ波観測装置により発見された。画像左上は、HSTによる画像の上にSCUBAによる観測データを等高線として書きこんだものだ。

この銀河は、およそ120億光年の彼方にあり、宇宙の年齢が現在の1/5程度であったときの形成初期の銀河で、ひじょうに急速に星形成を行なった後、そのとき形成された無数の短命の巨星が次々に超新星爆発を起こし、その超新星の残骸である濃いガスとチリの雲が銀河全体を覆っている。このタイプの遠方の形成初期の銀河は、ひじょうに活発な活動を行なっているのだが、銀河からの光はチリの雲よってほとんど吸収されてしまうため、外部には淡い輝きしか放っておらず、可視光での観測は難しい。しかしサブミリ波なら、銀河を覆う雲そのものからの放射――雲の中で新しく誕生した多数の恒星は、周囲の雲を熱し、熱された雲からはサブミリ波が放射される――が観測される。

SCUBAは3年前に観測を開始してから、このタイプの銀河を数多く発見している。だが、SCUBAによる観測データは、ひじょうに解像度の低い、ぼやけたものでしかなく、銀河の構造まではとらえられない。画像左上に書きこまれた等高線から、SCUBAの解像度の低さがよくわかる。

SCUBAが多数発見しているこのタイプの銀河は、通常は淡すぎて可視光では観測できない。しかし、今回の観測対象「J1/J2」の場合、その手前に巨大な銀河団「Abell1835」があり、銀河団がつくり出す巨大な重力場による重力レンズ効果により「J1/J2」からの光が集光されていたことが、観測の成功につながった。この成功により、若い形成初期の銀河の構造が初めて判明した。J1(上)とJ2(下)の2つの大きな塊からなり、J1の方はより小さないくつかの塊でできていることがわかる。

巨大な重力場は、まるで巨大なレンズのように、そこを通過する光を屈折させ、その像を集光・拡大・変形させる。この現象は、重力レンズと呼ばれる。画像右はHSTが撮像した銀河団「Abell1835」の広域画像で、ところどころに見られる、ゆるく曲がった細い弧のような淡い天体が、重力レンズにより集光・拡大・変形された遠方の銀河だ。画像右の上部の四角は、左下の画像にとらえられている範囲を示す。

観測チームのリーダーJean-Paul Kneibによると、「J1/J2」は、大型楕円銀河の形成初期の姿であると考えられ、「J1/J2」に見られるような複数の塊がやがて混じり合い、大型楕円銀河が形成されたのだろうという。

画像提供: ESA / NASA