チャンドラによるうみへび座Aの観測

【1999年12月9日 NASA TodayChandra X-ray Observatory Center

HST image

チャンドラX線宇宙望遠鏡は強い電波源として知られるうみへび座Aの観測した。この天体は地球から約8億4千万光年離れた場所にある銀河集団で、可視光ではこの領域の中に数百個もの銀河が観測されている。X線による観測で、直径数百万光年の銀河集団全体に3500〜4000万度もの高温ガスが存在し、外部ほど温度が高いという構造が明らかになった。

可視光、電波画像との比較

うみへび座Aの位置

うみへび座Aは3C295と同様に巨大な銀河集団のひとつとして知られている。 この天体は内部に1000個以上の銀河をつくり出すことができるほどのガスを有しており、宇宙の中の物質に対して大きな重力的な拘束力をもっている。このため銀河集団の構造や進化を調べることは、宇宙全体の運命を予測するうえでも重要である。

科学者たちは長い間、銀河集団内のガスはすべて中心部にある巨大ブラックホールに落ち込むと考えていた。しかしチャンドラの高分解能観測により、この銀河集団の中心部から約3500万度のガスが外部に向かって、まるで“うみへび”のように広がり出しているようすが捉えられた。この構造は、ブラックホールの周辺をとりまく磁場が中心部に流れ込むガスを外部に跳ね返すことによって形成されたものと考えられている。この強い磁場は物質がブラックホールに落ち込む際に発生した爆発によって形成されたとみられている。

これまでのX線観測では、うみへび座Aの中心部は冷却過程が進み、銀河や星が形成されながらそれらの物質がゆっくりと中心部に落ち込んでゆくと考えられていた。しかし他の観測によると、中心付近に形成されるはずの銀河や星の数が全然足りないという矛盾が指摘されていた。今回のチャンドラの観測より、うみへび座Aの中心部には星を形成するような冷却ガスは外部に吹き飛ばされ、かわりにブラックホール近傍で爆発により生み出された高温ガスで満たされていると考えられるようになった。銀河集団の中心部はこれまで私たちが考えていたよりもずっと複雑でダイナミックな変化を起こしているようすを物語るものである。

<ニュースソース>
Chandra X-ray Observatory Center Press Room

<チャンドラX線宇宙望遠鏡ニュース>
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チャンドラの初仕事、「カシオペヤ座A」の観測
チャンドラX線望遠鏡による画像集
かに星雲中のパルサーを取り巻くリング
エータ・カリーナを取り巻くU字型リング
衝突銀河ケンタウルスAのX線ジェット
X線でみたクェーサー3C295の中心部