分解能0.2秒角を達成したすばる望遠鏡・最新画像

【1999年6月11日 国立天文台国立天文台ハワイ観測所

国立天文台ハワイ観測所は6月11日、すばる望遠鏡による新しい成果を発表した。ファーストライト画像の公開以降、はじめての公式発表である。公表されたのは、すばる望遠鏡の調整が順調にすすんでいることを示す、星像の分解能データと、電波銀河3C324周辺にちらばる遠方銀河団の映像である。

画像1:地上望遠鏡として未踏の0.2秒角の星像を達成

地上望遠鏡として未踏の0.2秒角の星像を達成

すばる望遠鏡に赤外線カメラCISCOを取り付けて撮影した恒星の像の明るさ分布図。縦軸は像の最大強度を1としたときの明るさ、横軸は星像の広がり示す天球上の角度をあらわしている。星像の大きさ(分解能)は、その中心強度が半分になるときの角度、すなわち半値幅(FWHM)であらわすのが慣例であり、今回その値(強度0.5での星像の幅)は0.198秒角という、すばらしくシャープなイメージが得られていることを示している。そしてこの値が、波面補償光学装置という大気揺らぎ(シンチレーション)の影響を取り除く装置を用いていない段階で得られたことに大きな意義がある。地上の望遠鏡としては、これまでに達成されたことのない快挙である。

星像の大きさは望遠鏡の結像性能と、大気の揺らぎによる像の広がり効果によって決まる。今回の結果は、ファーストライト以降、主鏡の能動支持機構の微調整などを進めた結果、結像性能が向上したことに加えて、ハワイ・マウナケア山頂の大気揺らぎの少なさを実証したものとも言える。

すばる望遠鏡には赤外線観測専用の副鏡が準備されており、今後この副鏡を使うことによって常時0.2秒角の星像が得られるようになるという。また観測チームは今年後半、すばる望遠鏡に波面補償光学装置を導入することで大気ゆらぎの影響を取り除く研究を進めていく予定である。これにより、地上望遠鏡としては最高の0.06秒角の分解能を達成できる見込みであるといい、実現すれば可視光におけるハッブル望遠鏡の解像力をも凌ぐことになる。

画像2:およそ100億光年遠方の電波銀河3C324と付随銀河団

すばる望遠鏡が捉えた3C324

・カラー合成: 赤色:すばる望遠鏡、近赤外線Kバンド(2.15ミクロン)
        緑色:ハッブル宇宙望遠鏡、可視光赤 (0.7ミクロン)
        青色:ハッブル宇宙望遠鏡、可視光青 (0.45ミクロン)
・観 測 日 時: 世界時1999年4月2日
・露 出 時 間: 800秒
・視    野: 約1.5分角×2分角
・画像の向き:右ななめ上が北(ふれ角は上から右へ38度)、左ななめ上が東
・天体位置(J2000.0): 赤経=17時14分10秒、赤緯=+50度16分(りゅう座)

すばる望遠鏡の赤外線画像とハッブル宇宙望遠鏡の可視光線画像とを合成することにより、約100億光年遠方の活動銀河の姿とそれをとりまく銀河団のようすが浮かびあがった。

画面中央やや右上(矢印)に、青と赤の入り組んだ小さな天体がある。左上の囲みに示したのが、この活動銀河3C324の姿である。強力な電波を放つこの天体は、ハッブル宇宙望遠鏡の観測で、激しくジェットを吹き出していることがわかった。囲み内、斜めにのびる数珠玉のような青い色をした部分がハッブル宇宙望遠鏡がとらえたジェットである。そしてその中心からぼやっと広がる赤い色をした部分が、すばるのとらえた銀河本来の姿であり、それが巨大な楕円銀河であることがわかる。

また、画面には3C324をとりまくように複数の銀河が見えている(右上の点線の外側は、ハッブル宇宙望遠鏡のデータのない領域なので除く)。図中で青く見える天体は、ハッブル宇宙望遠鏡がとらえた、比較的手前にある星や銀河である。これに対して赤く見える天体は、ハッブル宇宙望遠鏡の可視光線画像ではほんのわずかにしか見えておらず、すばる望遠鏡の赤外線画像によって、はじめて明るくシャープにとらえられた遠方の銀河団である。これらの銀河は非常に遠方にあるため、宇宙膨張による赤方偏移などの理由により赤外域で明るくみえているが、すでに宇宙の誕生から10〜30億年を経過した姿であると考えられ、宇宙の構造進化を研究する上で貴重なデータとなっている。

地上望遠鏡として最高度の性能を達成したすばる望遠鏡は、そのシャープな赤外線画像をハッブル宇宙望遠鏡のシャープな可視光画像と組みあわせることを可能にした。今後より多方面の研究に活躍していくに違いない。

「電波銀河3C324とそれを取り囲む銀河団」の位置
付録:「電波銀河3C324とそれを取り囲む銀河団」の位置

すばる望遠鏡ではファーストライト以降、各種の試験と調整が行われてきた。夏からは、国内で組み立て調整中の「第一期観測装置」がハワイに到着し、本格的な試験観測に入る予定である。そして、来年春以降には、本来の目的である共同利用の観測体制を確立していくことを目指している。

国立天文台ハワイ観測所では今後、ほぼ1か月ごとに新しい観測データを1〜2点ずつ公表していく予定であるという。期待しよう。

画像のダウンロードや、より詳しい解説記事は下記を参照のこと。
すばる望遠鏡、0.2秒角の星像を達成 (国立天文台・すばる望遠鏡)
すばる望遠鏡/1999年6月の画像(国立天文台)