中間質量のブラックホール

【1999年5月13日 国立天文台天文ニュース(257)】

先月、アメリカ、南カロライナ州チャールストンで開催されたアメリカ天文学会、高エネルギー天体物理学部門の集会で、二つのグループが、それぞれ、これまで知られていなかった、中間質量のブラックホールを発見したことを報告しました。

ブラックホールというと、莫大な質量が僅かな体積に集まり、その重力に引かれて、光さえそこから出ることができない天体といわれ、何か化け物のような存在を想像される方があるかもしれません。 光が出られないのは事実ですが、特異な状態にあるとはいえ、ブラックホール自体は物理学的に説明できるものです。

これまで、ブラックホールには、大別して二つの種類があるとされていました。 ひとつは恒星程度の質量のブラックホールです。 これは大質量の恒星の寿命が尽き、超新星となって爆発した跡に残ると信じられ、太陽の数倍程度の質量をもつと考えられています。 もうひとつは超巨大質量のブラックホールで、ある種の銀河の中心部に存在すると推定され、太陽の数100万倍から数10億倍という途方もない質量をもつと考えられています。 どのようにしてこのブラックホールが形成されたかは解明されていません。 星の形成が非常に激しいいわゆるスターバースト銀河の中心部で、上記の恒星質量のブラックホールがたくさん生まれ、それらがしだいに合体して巨大質量になったという推測もあります。 この仮説が正しいとすると、ある時期には、二種の中間の質量をもつブラックホールがあってもいいはずです。

ブラックホールそのものはもちろん見えませんが、周囲に形成している降着円盤のガスはブラックホールに落ち込み、熱されて、強度変化の激しい、特徴のあるスペクトルをもつX線を出します。 そのX線を観測することで、ブラックホールの存在やその質量が推定できます。

上記の集会で、ピッツバーグ、カーネギー・メロン大学のグリフィス(Griffiths,R)らは、X線観測衛星「あすか」の観測データを解析し、スターバースト銀河M82に、太陽質量の460倍のブラックホールが存在すると発表しました。 一方、メリーランド州グリーンベルト、ゴダード・スペースフライトセンターのコルバート(Colbert,Ed)らは、ローサット(ROSAT)衛星の観測による39個の銀河のX線スペクトルをまとめた資料を調査して、その6個にブラックホールの特徴を見いだし、また、確証はないけれど、その他15個からもブラックホールの存在が示唆されると述べました。 彼らは、これらの質量を太陽の100倍から1万倍程度と推定しています。

このような中間質量のブラックホールが発見されたからといって、それがすぐに超巨大質量のブラックホールの形成過程を証明するわけではありません。 しかし、ブラックホールを考える新しい手がかりのひとつとなることは間違いないでしょう。

参照  Sincell Mark, Science 284,p.566(1999).