赤外線観測から求められた「ハッブル定数」の最新値

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【2012年10月5日 NASA

NASAの赤外線天文衛星「スピッツァー」の観測から、宇宙の膨張率を表すハッブル定数が高精度で求められた。


ケフェイドの周期光度関係グラフと観測結果

天の川銀河内で10個、大マゼラン銀河で80個のケフェイドを観測し、真の明るさと変光周期との関連を正確に求めた。横軸が周期の長さ、縦軸が明るさ。クリックで拡大(提供:NASA/JPLCaltech/W.Freedman(Carnegie))

この宇宙が膨張し続けているということは1920年代に明らかになった。そのきっかけとなったのは、ケフェイド(ケフェウス座δ型変光星:「セファイド」などとも呼ばれる)と呼ばれる天体の、真の明るさと変光周期との関連性が判明したことだった。変光周期から真の明るさがわかるようになり、それを見かけの明るさと比較すればケフェイドまでの距離がわかる。多数のケフェイドの距離測定結果を手がかりに、宇宙が膨張していることがわかったのである。

米・カーネギー天文台のWendy Freedmanさんらの研究チームでは、NASAの赤外線天文衛星「スピッツァー」を用いて天の川銀河や大マゼラン銀河にあるケフェイドを観測した。赤外線観測では宇宙空間の塵を見通せるのでケフェイドの真の明るさを正確に求めることができ、その結果、距離測定もより精度が高いものになった。

宇宙の膨張は、「遠くの天体ほど速く遠ざかって見える」ことで示される。天体までの距離と、その天体の遠ざかる速度の比例定数が「ハッブル定数」と呼ばれるものだ。

スピッツァーの観測から求められたハッブル定数は、74.3±2.1km/秒/Mpcとなった。これは、距離が1Mpc(メガパーセク:約326万光年)離れるごとに膨張速度が秒速74.3km大きくなる、ということを表す。この値は、ハッブル宇宙望遠鏡による従来の可視光観測の3倍の精度で求められ、誤差も3%にまで抑えられた。

さらに、NASAのWMAP衛星の観測データと今回の結果とを合わせて、暗黒エネルギーの独自の測定も行われた。宇宙の膨張が加速していることが1990年代後半に判明しているが、その原因となる謎の力が「暗黒エネルギー」と呼ばれるものだ。

「たった10年前まで、『宇宙論』に関する数値はきわめておおざっぱなものでした。それが今では、数%レベルの精度で語ることができます。これは実に画期的なことなのです」(Freedmanさん)。