5月の金環日食を天文界が総括

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【2012年9月21日 国立天文台

今年5月21日、多くの日本人が目にした金環日食。先日大分で開かれた学会では、天文コミュニティによる日食の安全な観察方法などの情報提供の取り組みとその成果をテーマとした発表が数多く行われた。


今月19日から21日に大分で開かれた日本天文学会秋季年会では、5月21日の金環日食について現象そのものに関する科学的なアプローチのみならず、天文コミュニティによる普及活動の実施と成果に関する報告が数多く紹介された。全国で多くの人たちが日食を観察することが予想された今回、天文コミュニティからの周知活動において、安全な日食観察のための情報が非常に重要な点となった。

《金環日食観察への対応は適切であったか? ―リスク・コミュニケーション面からの検証―》

発表:縣 秀彦(国立天文台)

学校への配布物の画像

周知徹底のため、教育現場向けにさまざまな配布物が作られた。画像は、「Science Window」誌2012年春号に同封された「日食を安全に観察しよう」パンフレット、映像作品「日食を楽しもう」DVD、日食めがねサンプル。クリックで拡大(提供:国立天文台)

2012年金環日食日本委員会や国立天文台は、国内関係機関・団体と協力して日食に関する情報適用、特に安全な観察を広く呼びかける積極的なリスク・コミュニケーション活動を全国で展開した。その結果、日食網膜症の発症を減らす等の成果が得られた。

その一例として、日食を前にした5月11日、不適切な日食めがねが流通しているとの情報が2012年金環日食日本委員会に提供された(参照:不適切な透過率の製品を公表 デメテル株式会社「日食観賞用グラス」)。測定の結果、太陽観察に適さない製品であることが判明し、同月15日に消費者庁から業者に対し販売を停止するよう連絡、翌日から自主回収が始まった。18日には消費者庁および2012年金環日食日本委員会のウェブサイトで商品名が公表され、テレビニュースや翌朝の新聞各紙で報じられた。

今回の日食で生じた目の障害について、日本眼科学会が中心となり、6月末を期限に調査が行われた。中間報告によると、日食によって視力の異常を訴える症状は958例。そのうち明らかな網膜の異常は80例見られた。詳細な調査報告が待たれるが、1912年のドイツ日食など過去の日食網膜症発生率より低いと見られている。

また日常生活でも太陽を直視してしまう危険があるため、国として日食網膜症の危険を認知し、日食めがねをはじめとする太陽観察用具の安全基準を策定し、工業製品としての規格を明確にするよう提案する。

《2012年金環日食日本委員会の活動》

発表:大西浩次(2012年金環日食日本委員会)

日本天文協議会(会長:海部宣男)では、この金環日食を安全に楽しむための適切な情報発信を行う組織「2012年金環日食委員会」を2011年4月22日に発足し、安全な日食観察をめざす以下の4つの柱を掲げて活動を展開した。

  1. 観察に関する知識を周知する
  2. 日食めがねなどの観察方法に関する調査研究を行う
  3. 日食関連イベントなど観察の機会提供に関する情報を収集・発信する
  4. シンポジウムを催し日食に関心を持つ方々の情報交換の場を創出する

《2012年金環日食日本委員会の広報物はどのように使用されたか》

発表:大川拓也(2012年金環日食日本委員会)

2012年金環日食日本委員会では、金環日食に向けて、天文現象としての日食の魅力を伝えるだけでなく、予備知識を持たずに日食を見てしまうことの危険性についても喚起、安全な観測方法を用意するよう訴えた。安全な観察の知識を社会に広めることをめざして制作した広報物のいくつかは、全国的な配布が実現した。

  • 学校向け資料『2012年5月21日 日食を安全に観察するために』
    文部科学省から2012年2月3日付で各都道府県・指定都市教育委員会等への事務連絡が出された。3月27日には文部科学省のウェブサイトにも文書のPDFファイルが掲載され、さらに4月18日にも再度事務連絡で学校等への周知が図られた。学校では印刷物として各家庭に配布されるなど、注意喚起の情報源として用いられる文書となった。
  • 日食に関する啓発ポスター『5月21日朝 日食 じかに見ちゃダメ』
    このポスターは、財団法人日本眼科学会、公社日本眼科医会、日本眼科啓発会議、日本天文協議会の連名で作成したもので、眼科関係では全国の眼科専門医として認定を受けている施設へ配布された。天文関係では合計約2万1000枚を、JAXA宇宙教育センター、日本プラネタリウム協議会、日本公開天文台協会、天文教育普及研究会から、全国の関係施設や会員等へ、2012年3月、4月に配布された。
  • 映像『日食を楽しもう』

《メディアはどう伝えたか》

発表:小野智子(国立天文台)

25年ぶりに日本国内で見られる金環日食であったことに加え、東京をはじめ、名古屋、大阪など大都市が金環帯に含まれていたことからも、大きな話題となり、マスメディアで数多く取り上げられた。

取り上げられ方の主な特徴としては、2012年3月に入って、金環日食鑑賞ツアー、関連商品、日食めがねなどビジネス系の情報が中心に掲載されはじめ、日食をとりあげたコラムも目に付くようになった。

日食1ヶ月前からは、「金環日食限界線共同観測プロジェクト(2012年の金環日食の限界線を研究するため結成された有志の会)」についても報道で大きく取り上げられるようになった。同じころから、安全な観察、登校中の不慮の事故回避のための、小中学生登校時間が繰上げ(または繰り下げ)の事例が紙面を賑わした。ゴールデンウィーク期間中は関連記事の掲載は少なかったものの、連休明けの5月9日以降は、関連報道が連日続き、掲載数も当日10日前から急増した。

さらに、全国各地で見られた日食のようすは、21日当日の夕刊、翌22日朝刊を中心に一般紙および地方紙でも大きな見出しで写真とともに報じられた。

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