ブラックホールの源流に迫る、噴射ジェットの方向転換

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【2012年9月19日 サブミリ波VLBI

遠方銀河の中心にある巨大質量ブラックホールから、ジェットが方向を変えて噴き出している様子がとらえられた。ジェットが噴出するメカニズムの解明やブラックホールの直接撮像という最終目標に向けての大きな一歩となる成果だ。


3C 279の観測画像

3C 279の観測画像。従来の観測と別方向のジェットの向きが存在しているのがわかる。これらの画像から推測されるジェットの構造は2枚目の画像へ。クリックで拡大(提供:国立天文台)

3C 279のジェットの構造

画像1枚目などの観測結果から推測される3C 279のジェットの構造。クリックで拡大(提供:国立天文台/AND You Inc.)

NRAO 530の観測画像

NRAO 530の観測画像。これらの画像から推測されるジェットの構造は4枚目の画像へ。クリックで拡大(提供:国立天文台)

NRAO 530のジェットの構造

画像3枚目などの観測結果から推測されるNRAO 530のジェットの構造。クリックで拡大(提供:国立天文台/AND You Inc.)

「活動銀河」とは、その中心にある超巨大質量ブラックホールに吸い込まれていくガスや噴出するジェットからの放射で明るく輝くと考えられている銀河を指す。その明るさは並大抵のものではなく、遠方銀河にもかかわらず恒星のように見えるほどだ。

ブラックホールからのジェットは光速に近い激しいものだが、そのメカニズムについてはほとんどわかっておらず、宇宙物理学の未解決問題の1つとして残っている。

日米を中心とした国際研究プロジェクト「Event Horizon Telescope」(「事象の地平線」望遠鏡)(注1)計画では、世界各地の複数の電波望遠鏡をつないで巨大電波望遠鏡の性能を実現するVLBI(超長基線電波干渉計)観測を用いて、ブラックホールの謎に迫ろうとしている。今回の観測では、アメリカのハワイ島とカリフォルニア、アリゾナにある電波望遠鏡と電波干渉計を用いて1.3mm波長帯のVLBI観測を行い、超巨大質量ブラックホールのジェットを史上最高の解像度(月に置いたCDを地上から見分ける程度)でとらえることに成功した。さらに、従来の長い波長での観測ではジェット中のガスに遮られて見えなかった根元部分など、よりブラックホールに近い部分まで見ることができた。

研究チームは2つの活動銀河「3C 279」(おとめ座の方向、距離約53億光年)と「NRAO 530」(へび座、約73億光年)を観測し、両天体のジェットの根元の構造が、これまで長波長で見えていたジェットの構造とは大きく異なることを明らかにした。

3C 279では、これまでに観測されていたのとは大きく異なる方向へのジェットの流れが見られた。これは、従来観測されたジェットと今回のジェットとで噴出時の向きが変わりジェットが折れ曲がっていることを示唆していると研究チームは考えている(画像1、2枚目)。ジェットの方向が大きく変わるのは非常に稀な現象であるため、より貴重なデータとなった。

NRAO 530でも、これまで見えていたのと異なる向きにガスが噴出している様子が確認された。他の波長帯の観測結果も考慮すると、今回の観測で得られた画像は、電波で明るいガスが新たに噴出し、曲がったジェットの中を移動しているところを写したものと考えられる。今までわかっていた領域よりもさらに上流の部分でジェットが曲がっていることも明らかになった(画像3、4枚目)。

これらの現象は、ジェットがなぜ曲がるのか、どこまで曲がるのかを知るうえで大きな手がかりになるという。ジェットがどのようにして噴出し、進んでいくのかという基本的な謎を理解するのに重要な情報なのだ。

プロジェクトでは、今後も参加望遠鏡の増加や観測装置のアップグレードにより、ジェットの形成メカニズムの解明に向けてさらなる手がかりを得ようとしている。また、数年以内にプロジェクトの最終目標であるブラックホールの直接撮像(注2)を目指している。

注1:「事象の地平線」 ブラックホールの周囲で、それ以上近づくと重力が強くなり光や物質が逃げ出せなくなるような境界を「事象の地平線」と呼ぶ。

注2:「ブラックホールの直接撮像」 ブラックホールに落ちて行くプラズマガスの光の中に見えると考えられる黒い影をとらえることで、事象の地平線の存在を確かめる。