日本初の暦作りを描いた「天地明察」映画版が15日公開
関連キャンペーンや展示イベントなども開催

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【2012年9月14日 映画「天地明察」

日本初の和暦作りに挑戦した安井算哲(後の渋川春海)を描いた小説を映画化した「天地明察」が、9月15日から全国で公開される。


月刊「星ナビ」2012年10月号掲載記事(執筆/山下美樹)をウェブ用に再構成したものです。

5月21日の金環日食で大いに盛り上がった日本列島。観望できた方もできなかった方も、次は劇場で江戸時代にタイムスリップして日食を観望してはいかがだろうか。

映画『天地明察』は、天文と算術に魅せられ、日本初の和暦作りに挑戦した安井算哲(後の渋川春海。1639〜1715年)を描いた同名の時代小説を原作としている。冲方丁による原作を月刊「星ナビ」(2010年7月号)や天文ニュースで以前紹介したので、すでに読まれた方も多いかもしれない。

あらすじ

妻えんに支えられ改暦を成し遂げる算哲の奮闘ぶりも見もの

天才肌ではなかった算哲が、幅広い知識と人脈、そして妻えん(写真)に支えられ、改暦を成し遂げる人間ドラマでもある。クリックで拡大((c) 2012「天地明察」 製作委員会。以下同)

舞台は江戸時代前期。当時、中国の宣明暦(せんみょうれき)を800年以上にわたり使用し続けた日本では、暦に2日の誤差が生じていた。しかし、暦は帝より勅命を受けた陰陽師が代々司る神聖なもの。さらに朝廷の巨大な利権がからんでいるため、幕府も迂闊には手を出せない。

そこで、時の将軍家綱の後見人である会津藩主・保科正之は、あからさまな幕府主導とならない改暦を試みる。その手始めとして、日本各地で北極星を観測しその土地の緯度を計測する「北極出地」を、天文学・数学・暦学に通じている碁打ち衆の安井算哲に命じる。

この測量の旅で才覚を認められた算哲は、改暦事業の責任者として異例の大抜擢を受ける。しかし、改暦への道のりは苦悩と挫折の連続だった……。

レビュー

算哲をサポートする有力者、水戸光圀

算哲をサポートする有力者として、おなじみ水戸光圀も登場。新し物好きで革新的という人物像や、改暦をめぐる幕府や朝廷周辺の政治的駆け引きの描写も興味深い。クリックで拡大

本作で興味深いのは、安井算哲の生涯はもとより、江戸×天文という組み合わせだ。算哲の生きた時代に起こった日食や、緯度を測る大象限儀、星の位置を測る渾天儀などの観測道具が存分に見られるのは本作ならでは。

滝田監督が特にこだわったのは江戸時代の夜空。天文シミュレーションソフト「ステラナビゲータ」を参考に、すべて脚本の時間軸通りに再現したため、ひとつして同じ夜空がない。

また、この時代にはまだ舶来の太陽観察めがねが登場しておらず、安全性に問題のある観察方法が採られていたため、日食観望のシーンでは代わりに黒曜石を使うという独自の設定がなされている(画像2枚目)。ただし、黒曜石の工芸品の加工販売を行う十勝工芸社によれば、実際には黒曜石を通して太陽の形を見ることはできないという。

日食のシーンや星空など、天文ファンには「おや?」と思う“演出”も多少あるのだが、史実や実際の星空との違いを探す楽しみ方もあるだろう。本作では、初代天文方となった渋川春海の半生を、周囲の人物や天文現象まで丁寧に描いている。

日食や天体観測シーンに目がいきがちだが、細かいところばかり見ていて物語としての盛り上がりや映画ならではのスケール感を見逃してはもったいない。天文ファンが見て楽しめるのはもちろんのこと、そうでない人にも古天文や和算、囲碁の御前対局など江戸文化を存分に楽しめる、エンターテインメント作品といえるだろう。

フルレビューは月刊「星ナビ」2012年10月号で。

■ タイトル:
「天地明察」
■ 公開:
2012年9月15日(土)全国ロードショー
■ 原作:
冲方 丁『天地明察』(角川書店)
■ 監督:
滝田洋ニ郎
■ 脚本:
加藤正人、滝田洋二郎
■ 出演:
岡田准一、宮﨑あおい、中井貴一、松本幸四郎 ほか
■ 配給:
角川映画/松竹
■ 公式サイト:
映画『天地明察』オフィシャルサイト

《キャンペーンイベント》

「北極星を見つけよう!」キャンペーン

リンクを削除しました

北極星を見つけて星空を見ることの楽しさに触れ、さらに簡単な方法で北極星の高さを測ることで、その面白さを追体験するキャンペーン。

「北極星を見つけよう!」キャンペーン

「夜空を作ろう!」プロジェクト

日本全国から夜空の写真を募集するキャンペーン。スタッフ・キャストも参加し、全国から集った写真は、ひとつの夜空となって9月に都内某所で出現予定?

「夜空を作ろう!」プロジェクト


《「天地明察」関連イベント》

天文学普及講演会『江戸時代の天文学と映画「天地明察」』

■ 日時:
2012年9月15日(土) 14:00〜16:00
■ 会場:
国立科学博物館
(東京都台東区)
■ ウェブサイト:
イベント情報ページ(国立科学博物館)

「天地明察」復活展 〜渋川春海と「天地明察」I・II〜

■ 日時:
開催中(無休)
■ 会場:
国立天文台三鷹キャンパス 天文台歴史館1階
(東京都三鷹市)
■ ウェブサイト:
国立天文台図書室ホームページ

企画展「渋川春海と江戸時代の天文学」

■ 日時:
2012年10月21日(日)まで
■ 会場:
大阪市立科学館 展示場4階東側、地下1階アトリウム
(大阪府大阪市)
■ ウェブサイト:
企画展「渋川春海と江戸時代の天文学」(大阪市立科学館)

「細川家に残る江戸の天文学」

■ 日時:
2012年9月25日(火)〜12月24日(月・祝)
■ 会場:
細川コレクション 永青文庫
(東京都文京区)
■ ウェブサイト:
展示スケジュール(永青文庫)

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