すばる望遠鏡が明らかにした暗い矮小銀河の生い立ち

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【2012年2月8日 すばる望遠鏡

すばる望遠鏡による観測で、天の川銀河の周囲にある矮小銀河が、120億歳以上と非常に年老いた星ばかりで構成されていることがわかった。天の川銀河の形成を探るうえでも、宇宙初期の小さな銀河の形成と進化を考えるうえでも非常に重要な成果だ。


天の川銀河周辺の矮小銀河の分布

天の川銀河周辺の矮小銀河の分布を示した鳥瞰図。クリックで拡大(提供:国立天文台、以下同)

うしかい座I矮小銀河の擬似カラー画像

うしかい座I矮小銀河の擬似カラー画像。星がまばらに存在しており、画像からは銀河の構造などを見ることができない。クリックで拡大

うしかい座I矮小銀河の色等級図と空間分布

うしかい座I矮小銀河の色等級図(左)と空間分布(右)。色等級図は星の色と明るさをグラフに表したもので、グラフの形から星の年齢を求めることができる。色等級図から矮小銀河に属する星を選び空間分布を求めたのが右側の画像。2枚目の画像では見えなかった矮小銀河の構造が浮かび上がっている。クリックで拡大

天の川銀河などの大きな銀河は小さな銀河が合体を繰り返すことによって大きくなってきたと考えられている。このような大きな銀河の周りには矮小銀河という小さな銀河が回っていることが知られており、合体をせずに生き残った銀河ではないかと考えられている。

しかし矮小銀河は非常に暗く、また広がった星の分布を持つものもあるために観測が難しく、矮小銀河がどのように形成され進化したのか、どのような空間構造をしているのかを知るためのデータはじゅうぶんではなかった。

北京大学、国立天文台、チューリッヒ工科大学の研究チームは、天の川銀河周辺で新しく見つかった4つの暗い矮小銀河について、すばる望遠鏡に搭載されている主焦点カメラSuprime-Camで観測を行った。広い領域を一度に撮影できるSuprime-Camと口径8.2mという大きな鏡の集光力を生かすことで、矮小銀河の詳細を明らかにすることができる。

観測の結果を恒星進化理論に基づく等時曲線()や古い球状星団での星の分布と比較したところ、これらの矮小銀河を構成する星は非常に古い星ばかりであることがわかった。4つの中で比較的明るいりょうけん座I矮小銀河は少し若い星を持っているが、この若い星は銀河の中心部分に固まって存在していることもわかった。

これらの結果は、宇宙初期に形成された矮小銀河は、星の材料であるガスがなくなってしまったために星を作り続けることができず、また少し明るい銀河はそれよりも少しだけ長く星を作り続けることができたことを意味している。明るさの異なる矮小銀河や天の川銀河の星々と比較をすることで、銀河の形成や進化の過程を明らかにすることができるかもしれない。

現在、すばる望遠鏡用の次世代広視野カメラHyper Suprime-Camが開発されている。Suprime-Camよりもさらに広い領域を一度に撮影できるので、今回ターゲットとなった暗い矮小銀河よりさらに暗い銀河や、矮小銀河が天の川銀河の潮汐力で崩れていく過程でつくられる構造(恒星ストリーム)が発見されることも期待される。

注:「等時曲線」 同じ時期に、同じ元素組成のガスから生まれた星々の集団は、恒星進化の理論的な予測では色等級図(3枚目の図の左側)上で一本の曲線上に分布する。この曲線を等時曲線と呼ぶ。