太陽圏外からのガスの組成を初めて直接測定

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【2012年2月6日 NASA

NASAの星間境界観測機「IBEX」が、太陽圏外からやってきたガスの組成を世界で初めて直接測定した。ガスは予想よりも遅い速度でやってきており、現在太陽圏の外側にあるガスは銀河系の平均的な組成とは異なることがわかった。


「IBEX」の取得したデータ、太陽、銀河系、それぞれの酸素とネオンの比率

左から「IBEX」の取得したデータ、太陽、銀河系の、酸素(O)とネオン(Ne)の比率。太陽と銀河系では酸素の割合はほとんど変わらないものの、局所雲は酸素が少ないことがわかる。クリックで拡大(提供:NASA/Goddard)

太陽圏の外側は、「ヘリオシース」と呼ばれる磁気バブルに覆われていることがわかっている(参照:2011/6/13「太陽系の果ては磁気バブルで覆われている?」)。これらの磁気バブルは、外からやってくる荷電粒子(注1)が太陽圏の中に進入してくるのを防いでいるが、電荷を帯びていない中性粒子はそのような境界をすり抜けて太陽圏内に進入すると考えられる。

太陽圏全体は「局所星間雲」と呼ばれるガスの雲の中を移動していると考えられている。NASAの星間境界観測機「IBEX」の観測によれば、この雲にある中性粒子はネオン原子20個に対して酸素原子は74個という割合であった。ネオン原子20個に対して酸素原子111個という太陽圏内の割合と比較すると、酸素がより少なく、組成が異なっていることがわかる。

この結果を説明するには2つの解釈が考えられる。1つは、太陽系は今いる局所星間雲とは違う、もっと酸素が豊富な場所で形成されたというもの。もう1つは、太陽圏の外では酸素が氷や粒子などにとじこめられており、原子という形で自由に動けるものは少ないというものだ。どちらが正しいとしても、太陽系や生命の誕生の議論に影響を与えそうである。

このような太陽圏外から来ていると思われるガスを観測するのは、今回が初めてというわけではない。例えば探査機「ユリシーズ」(注2)は木星近辺で、太陽圏外から時速95,000kmでやってくるヘリウムガスを観測している。しかし今回観測されたものは時速84,000km程度しかなく、また来ている方向も4度異なっていた。この角度は小さいように思えるが、そこから推算される境界部分での銀河風(注3)の圧力に20%もの差を生む。

またユリシーズの観測でば、太陽系は局所星間雲の中心ではなく端の方にあり、別の星間雲の領域に差し掛かりつつあると考えられてきたが、IBEXの結果は、少なくとも当分の間は太陽圏が局所星間雲の中にいることを示していた。しかし、数百年から数千年もすれば、この雲を抜けると考えられる。

1977年に打ち上げられた探査機「ボイジャー1号」は、あと何年かすれば太陽圏を脱出すると考えられている。ボイジャー、ユリシーズ、IBEXの結果を合わせることで、太陽圏の境界やその外側に関する環境が解明できるだろう。今は、その夜明け前にいるのかもしれない。

注1:「荷電粒子」 イオンや電子など、電荷を帯びている粒子。これらの粒子は磁場に沿ってしか運動できないため、磁気バブルに突入すると磁気バブルにとらえられそれ以上進入することができない。

注2:「ユリシーズ」 1990年に打ち上げられたNASAとESA共同で運用された太陽極軌道探査機。

注3:「銀河風」 太陽から飛んでくる原子やイオンの風を太陽風というが、同じように銀河の中心付近から飛んでくる原子やイオンなどの風のこと。