初期宇宙の超モンスター銀河「オロチ」、発見

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【2011年11月1日 国立天文台

初期宇宙に見られる星形成が非常に活発なモンスター銀河よりも、さらに10倍明るく見える「超モンスター銀河」が発見された。これは日本のサブミリ波望遠鏡ASTEを用いた観測による成果で、初期宇宙の星形成を研究する上で絶好の研究対象になると期待される。


今回発見された超モンスター銀河「オロチ」

アステ望遠鏡により得られたサブミリ波の画像(右)、その中でも「オロチ」周辺(右図の四角で囲まれた領域)の「すばる望遠鏡」による可視光画像(左上)、同じく「オロチ」周辺のSMAによるサブミリ波の高解像度画像。サブミリ波で明るく輝いている「オロチ」のある場所に、可視光では重力レンズ天体となった赤い銀河がいるのがわかる。クリックで拡大(提供:発表資料より。以下同)

様々な波長で撮影された「オロチ」

様々な波長で撮影された「オロチ」。サブミリ波、電波で撮影されたものが上段、可視光線、赤外線で撮影されたものが下段。クリックで拡大

重力レンズの模式図

重力レンズの模式図。重力レンズ現象が起きると、超モンスター銀河の光が地球側にある重力レンズ天体によって曲げられることで、本来よりも明るく観測される。クリックで拡大

モンスター銀河とは初期宇宙(90億年前〜120億年前の宇宙)に存在する非常に星形成が活発な銀河のことで、1年間に太陽500〜1000個分もの星形成が行われていると考えられている。今回、くじら座の方向にある「すばる/XMM-Newton深宇宙探査領域」を日本が運用するサブミリ波望遠鏡ASTE(アステ)(注1)で観測したところ、通常のモンスター銀河よりもサブミリ波の波長で10倍以上も明るい、超モンスター銀河とも言える銀河が発見された。この超モンスター銀河は日本の神話に登場する怪物「ヤマタノオロチ」にちなみ、「オロチ」と名づけられた。

さらに研究チームは米国サブミリ波干渉計SMA、米国ミリ波干渉計CARMA、米国カリフォルニア工科大学サブミリ波望遠鏡、米国超大型干渉電波望遠鏡群VLA, 米国スピッツァー宇宙望遠鏡、英国近赤外望遠鏡、日本の「すばる望遠鏡」を用いた観測や、過去の観測データを利用して「オロチ」について調べた。

その結果、可視光線、赤外線、電波のすべての波長でこの天体が観測されていたことがわかった。星形成領域を取り巻く濃い塵からのマイクロ波(赤外線)や、「オロチ」を構成する星の光に由来する近赤外線や可視光線が観測されたものと考えられる。

通常モンスター銀河は星形成が非常に活発で、銀河に存在する濃い塵のために可視光線では非常に暗く、塵から出てくる赤外線やサブミリ波では明るいという特徴を持っている。しかし「オロチ」は可視光線でも観測ができるため、モンスター銀河の特徴を知る上で非常に重要な手がかりとなると期待される。

「オロチ」はなぜこうも明るいのか。どうやらその秘密は重力レンズ現象(注2)にありそうだ。すばる望遠鏡による観測の結果、約118億光年離れた「オロチ」のある方向とほぼ重なるように、非常に暗い銀河が存在していることがわかった。この銀河までの距離は約90億光年と見られ、重力レンズ現象によって「オロチ」が他のモンスター銀河と比較して明るく見えている可能性が高いようだ。

初期宇宙に見られるモンスター銀河は、現在の宇宙における巨大楕円銀河や巨大ブラックホールの祖先だと考えられている。「オロチ」は増光されているので観測しやすく、これまでよくわかっていなかったモンスター銀河の性質が明らかになると期待される。「オロチ」が明るいのは重力レンズ現象による増光の可能性が高いが、もし実際にモンスター銀河のさらに10倍も星形成が活発な超モンスター銀河だとすれば、新しい銀河進化のプロセスが発見できるかもしれない。

注1:「サブミリ波」 波長が0.1mmから1mm程度の電磁波のことを指す。

注2:「重力レンズ現象」 遠くにある天体の光がより手前にある強力な重力天体によって、光がその強い重力によって曲げられ、レンズのように光を集められることで本来よりも明るくなる現象のこと。模式図としては画像3枚目を参照