初期宇宙にもたくさんあった大質量ブラックホール

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【2011年6月20日 NASA

NASAのX線宇宙望遠鏡「チャンドラ」の観測から、初期宇宙に大質量ブラックホールが多く存在していたということが初めて直接的に裏付けられた。これにより、当時の幼いブラックホールが、銀河の成長と共に非常に活発に成長していたことが示された。


(観測された区画を示した画像)

今回の研究のために観測した区画。「チャンドラ」のX線データ(青)と「ハッブル宇宙望遠鏡」の可視光線データ(青緑)・赤外線データ(赤)を合成したもの。クリックで拡大(提供:X-ray: NASA/CXC/U.Hawaii/ E.Treister et al; Infrared: NASA/STScI/UC Santa Cruz/G.Illingworth et al; Optical: NASA/STScI/S.Beckwith et al))

(初期宇宙の銀河とその中心のブラックホールの想像図)

初期宇宙における、生まれたての銀河にある幼いブラックホールの想像図。銀河同士の衝突が頻発し、ゆがんだ形になっている。その中心はガスやダストで覆われ、中では巨大ブラックホールがまばゆく輝きながら成長しつつある。クリックで拡大(提供:NASA/CXC/M.Weiss)

米ハワイ大学のEzequiel Treister氏らは、「ハッブル宇宙望遠鏡」による可視光・赤外線の画像と「チャンドラ」によるX線の画像を組み合わせて、誕生から8億〜9億5000万年後の宇宙に存在する200あまりの銀河の中からブラックホールを探した。銀河中心の生まれたてのブラックホールはガスやダストの厚い雲に覆われており、そのブロックをすり抜けるX線放射を観測することで見つけることができる。

これまで初期宇宙のブラックホールについては、その存在の有無すらはっきりわかっていなかったが、今回の観測で、これら初期宇宙のブラックホールがクエーサーさながらの勢いで急成長していることがわかった。クエーサーとは、大質量ブラックホールの重力で物質が吸い込まれる勢いがエネルギーとなって銀河何十個分もの明るさを放つ遠方の天体のことだ。もっとも、初期宇宙に見つかったブラックホール達は明るさも質量もクエーサーには遠く及ばない。

観測によれば、観測区画にある遠方銀河のうち3〜10割が成長中のブラックホールを擁している。これを全天に広げて考えると、初期宇宙には3000万個もの大質量ブラックホールが存在していたことになる。初期宇宙に生まれたてのブラックホールがどれだけあったか実際に観測されたのはこれが初めてだ。観測された成長中のブラックホールの数は、最新の見積もり結果の100倍にもなった。

初期宇宙でどのようにして大質量ブラックホールが形成され、それが銀河の進化とどのように結びついているのかというのは、興味深い謎のひとつだ。銀河は衝突・合体を繰り返すことで大きくなっていると考えられているが、今回の観測結果は銀河中心にあるような大質量ブラックホールも銀河と一緒に成長していることや、これまで考えられてきたよりも早い時期からブラックホールと銀河の成長に関連性があったことを示している。

また、初期宇宙のブラックホールは宇宙の再電離()に重要な役割を果たしているとも考えられてきたが、今回の研究では、ブラックホールが放射するX線はガスやダストに阻まれて再電離を起こすことはできないということが示された。ということは、恒星が放射する紫外線が犯人という説がより有力となる。

注:「宇宙の再電離」 宇宙のはじまりの数億年後に起きたと考えられる現象。誕生直後プラズマ状態だった宇宙は約40万年後、原子核と電子が結合して原子が誕生しいったん中性化したが、約5億年後、宇宙最初の星々が放射する紫外線によって中性水素がふたたび水素イオンと電子に分かれる「再電離」が起きたとされている。