「さそり座V1309」の増光は星のペアの合体によるものか?

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

【2011年5月27日 VSOLJニュース(269)】

日本の天体捜索家コンビ、西山さんと椛島さんが2008年に発見した新星「さそり座V1309」が、近接連星系の合体による現象ではという研究結果が発表された。ヨーロッパの研究チームが増光前の変光周期などを分析しまとめたものだ。


VSOLJニュースより(269)

著者:大島誠人さん(京大理)

夜空に見える星の多くはお互いに回り合うペアとなる星を持っていることが知られており、このような星のことを「連星」とよんでいます。一口に連星といってもその組み合わせや規模は多岐にわたり、望遠鏡でもペアを分離して見える系もあれば、スペクトル観測などによるより詳しい観測を行って初めて連星であることがわかる系もあります。

さそり座V1309は、2008年9月に福岡県の西山浩一さんと佐賀県の椛島冨士夫さんによって増光しているところを発見されました(2008/09/05のニュース「さそり座に新星らしき天体が出現」参照)。発見をうけて撮られたスペクトルは、水素のバルマー輝線が見られるなど新星の特徴を示していたことから、いったんはこの天体は新星爆発によって明るくなった天体であろうと考えられました。

しかし、その後のスペクトル変化が通常の新星とは大きく異なることが判明したため、一般的な新星とはやや異なった天体ではないかと考えられるようになりました。とくに、この天体のスペクトルの変化が特殊な天体であるいっかくじゅう座V838(2002/01/10のニュース「いっかくじゅう座に奇妙な新星?特異変光星?」参照)とよく似ていることから、同種の天体ではないかと疑われるようになりました。いっかくじゅう座V838は2002年に明るくなった新星様天体ですが、やはり通常の新星とは異なった機構によって増光したものと考えられています。

このような天体は現在数個発見されており、その物理的な意味づけについては諸説が出されてきたもののまだはっきりしていません。仮説の一つとして、2つの星が合体することにより明るくなったのではないかという仮説があります。

このたび、さそり座V1309の観測によってこの仮説が正しいのではないかと思われる証拠が見つかったとする研究がコペルニクス大学(ポーランド)のティレンダ氏らによって報告されました。

重力レンズ天体を捜索するためのサーベイ計画として知られている計画に、「OGLE」(Optical Gravitational Lensing Experiment:光学重力レンズ実験)があります。この計画での捜索範囲にこのさそり座V1309が含まれていたため、明るくなる以前も含め長年の観測データがとられていたのです。ティレンダ氏らがこのデータを解析した結果、増光前のこの天体は1.4日周期で変光しており、その変光の様子から周期1.4日の連星ではないかということが判明しました。

これを受けたワルシャワ大学のステピエン氏は、合体前の星がどのようなものだったかについての研究を行い、合体前の系はK型の巨星どうしがほとんど接触してお互いの周りを回っていたのではないかと考えています。

興味深いことにこの周期は観測が行われた数年間の間に次第に短くなっていることがわかっており、このことから、連星の公転周期が次第に短くなり、最終的に合体したのではないかということです。星の間隔が小さくなるにつれ角運動量が抜き取られていきますから、それがエネルギーとして開放されることで明るくなり2008年の増光につながったのだろうと考えられます。

このような近接連星系の合体は、まだ充分に正体が明かされていないいくつかの天体で大きな役割を果たしている可能性が示唆されています。現在ではすっかり暗くなってしまっている天体ではありますが、このようなきわめて珍しい現象をとらえた可能性の高い現象を日本の新星ハンターの方によって発見されたということは、特筆すべきことだといえるでしょう。