銀河成長停止の原因? 中心核の大規模ジェットを初観測

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【2011年2月23日 Gemini Observatory

中心に活発な銀河核を持ち、星を次々と生み出す遠方の銀河は、いつどのようにして成長を止めるのだろうか。その原因と目されるブラックホールからの大規模な物質放出を、ジェミニ天文台が初めてとらえた。


(マルカリアン231の想像図)

マルカリアン231の銀河核の想像図。この図は横から見ているが、実際には噴射方向に地球がある。上方、下方あわせて1年間で太陽400個分以上の物質を放出していると見積もられている。クリックで拡大(提供:Gemini Observatory/AURA, artwork by Lynette Cook)

(マルカリアン231中心部のガスの速度分布の図)

ジェミニ天文台の観測装置GMOSでとらえられた銀河中心部の中性ガスの速度分布。視線手前方向にジェットが噴射している。中心のブラックホール(黒い円)から右上方向に見える青〜紺色の部分が特に高速で噴射している部分。ブラックホール付近の赤い2本の線は電波ジェット。左下の赤い部分は爆発的な星形成領域。

天の川銀河を含め多くの銀河の中心には、巨大な質量をもつブラックホールがあると考えられている。ブラックホールはその強い重力で周囲の物質を引き寄せながら成長し、そのエネルギーで活発化した「活動銀河核」(AGN)がジェットを噴射しながら光り出す。活動銀河核の中でも、とくに遠方の銀河の中心で非常に強い光を放つものは「クエーサー」と呼ばれる。銀河核が活発化する原因は、銀河同士の衝突合体によってブラックホールが大量の“食料”を得るから、という説が現在有力視されている。だがこのような銀河も、やがては天の川銀河などのように成長を止め、星もあまり生まれなくなってしまう。どのようなきっかけによるものだろうか。

考えられる原因としてクエーサーからの物質放出が挙げられていたが、従来観測されたジェットは、銀河核の活動の衰えを説明するには弱すぎるものだった。アメリカのDavid S.N. Rupke氏とSylvain Veilleux氏による研究で初めて、十分な規模のジェット放出の証拠が見つかったのである。

観測対象となったのは、おおぐま座の方向6億光年先にある銀河「マルカリアン231」(Mrk 231)(注1)だ。天の川銀河の3倍の質量があり、その中心には太陽1000万個分のブラックホールが存在すると推定されている。Veilleux氏によればこのクエーサーは、銀河同士の衝突プロセスが完了に近づいている段階の銀河核として、比較的近い距離にある格好のサンプルだという。

マルカリアン231からの細いジェット噴射は以前から知られていたが、今回ジェミニ天文台(注2)で観測されたのは、毎秒1000kmのスピードで全方向に吹き出し、銀河核から8000光年以上にまで及ぶ大規模な中性ナトリウムガスのジェットだ(画像2枚目)。ブラックホールの成長段階で周囲に集めたガスの殻が吹き飛ばされ、クエーサーがむき出しになりかけている。

この激しい放出によりやがてブラックホールは飢え、銀河核は活動を止め、新しい星の材料となるガスが尽き、年老いた星ばかりの赤みを帯びた銀河になっていくと考えられる。

注1:「マルカリアン」 アメリカの宇宙物理学者ベンジャミン・マルカリアン(Benjamin Markarian)が作成した、紫外線で明るく活動銀河核を持つ銀河のカタログと、その掲載天体。

注2:「ジェミニ天文台」 米ハワイとチリに観測拠点を持つ天文台で、アメリカ、イギリスなど 7ヶ国で共同運用される。今回の研究はハワイにある「ジェミニ北望遠鏡」での観測によるもの。