ハッブル、系外惑星に彗星のようなガスの尾を直接検出

【2010年7月22日 HubbleSite

ハッブル宇宙望遠鏡(HST)が系外惑星「HD 209458b」を観測し、大量のガスが惑星から高速で流れているようすを直接検出した。惑星では、中心星の影響で惑星を包むガスが熱せられ宇宙空間へ逃げ出し、その一部が恒星風によって追いやられ彗星の尾のように伸びているとみられている。


(架空の伴星の表面から見た、尾を引くHD 209458bの想像図)

架空の伴星の表面から見た、尾を引くHD 209458bの想像図。クリックで拡大(提供:Artwork Credit: NASA, ESA, and G. Bacon (STScI), Science Credit: J. Linsky (University of Colorado, Boulder, Colo.))

「HD 209458b」は、木星ほどの質量を持つガス惑星である。地球から見て惑星が恒星の前を横切るときに恒星の光がわずかに暗くなるのを利用して惑星を検出する「トランジット法」によって発見されたガス惑星の第1号で、これまでにもっともよく調べられた系外惑星の1つだ。ペガスス座の方向、地球から約153光年の距離に位置する中心星「HD 209458」のまわりを3.5日の周期で回っている。その短い周期からもわかるように、惑星と中心星の間の距離は、木星−太陽間の100分の1ほどしかなく、惑星の大気は近くに位置する中心星によって熱せられ宇宙空間へと逃げ出している。

米・コロラド大学の天文学者Jeffrey Linsky氏らの研究チームは、HSTに搭載されている宇宙起源分光器(COS)を使って、トランジット中に惑星の大気を通過してくる恒星の光を観測・分析した。トランジット中の恒星の光を調べると、惑星の大気の構造や組成に関する情報を得ることができる。

その結果、摂氏1100度ほどの超高温の大気中に炭素やケイ素といった重元素が検出された。このことから、中心星によって惑星の大気全体が熱せられていて、重元素が外へ逃げ出していることが明らかになった。

また、惑星から離れてゆくすべての物質の速度が同じではないことも示された。Linsky氏は次のように話している。「わたしたちは、時速3万5400kmという高速で莫大な量のガスがわたしたちの方向に向かって逃げ出しているようすを発見しました。この大量のガスの流れは、恒星風によって形成されたもので、惑星から彗星の尾のように伸びていると思われます」

またLinsky氏は「2003年以降、質量の一部が(中心星から見て)惑星の背後に押しやられて、尾を形成しているという理論モデルがつくられました。さらに、尾がどんな構造なのかも計算されました。わたしたちは、その理論を支持する最高の観測的証拠を得たと思います。惑星から逃げ出すガスの速度を計測し、その一部がある速度を持って地球の方向に向かって流れている。これは、わたしたちが惑星から伸びる尾、つまり高速で流れるガスの速度を計測したと解釈するのが一番もっともらしいと思います」と話している。

HSTに搭載されている宇宙望遠鏡分光撮像器(STIS)は、2003年にHD 209458bを観測した。その際に、惑星から蒸発する大気や、(1つの可能性として)彗星の尾のような構造の存在が示されたが、地球の方向に向かって流れるガスの存在を示す詳細なスペクトル・データは得られなかった。今回用いられたCOSは、紫外線に対して感度が高く、分光解像度も優れているため、地球の方向へ向かうガス、つまり彗星の尾のように惑星から伸びる高速のガスを初めて直接検出することができたのである。

HD 209458bの将来についてLinsky氏は、「この極端な惑星は、中心星の熱で灼熱の世界になっていますが、すぐに崩壊することはありません。(現在観測されたような環境が続くと仮定した場合)蒸発し切るまでに途方もなく長い時間がかかるでしょう」と話している。

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ステラナビゲータ(Ver.8以降)では、惑星の存在が確認された恒星約400個(ニュース公開時点)を、追加天体として「コンテンツ・ライブラリ」で公開しています。ステラナビゲータをご利用の方は、ステラナビゲータの「コンテンツ・ライブラリ」からファイルをダウンロードしてください。なお、今回観測対象となった系外惑星HD 209458bが公転している恒星(HD 209458)は、コンテンツ・ライブラリのデータでは「V376 Peg」という名前で登録されています。