表面温度が数百度しかない、もっとも低温の褐色矮星の発見

【2010年6月30日 JPL

これまで知られている中でもっとも低温と思われる星が発見された。見つかったのは、表面温度が摂氏180〜330度ほどしかない褐色矮星だ。太陽系周辺に同種の天体は数百個存在している可能性が示唆されており、今後の観測次第では、わたしたちの描く太陽系周辺の光景が一変するかもしれない。


(スピッツァーによる、これまででもっとも低温と思われる褐色矮星の画像)

スピッツァーによる、これまででもっとも低温と思われる褐色矮星の1つ「SDWFS J143524.44+335334.6」(画像中央の赤い点)。クリックで拡大(提供:NASA/JPL-Caltech)

(太陽系周辺における褐色矮星の分布をシミュレーションした画像)

太陽系周辺における褐色矮星の分布をシミュレーションした画像(白・赤・黄:太陽をはじめとする恒星、暗い赤:存在が予想された数百個の褐色矮星、緑;スピッツァーが今回観測した領域)。クリックで拡大(提供:AMNH/UCB/NASA/JPL-Caltech)

NASAの赤外線天文衛星スピッツァーが、表面温度が摂氏約180〜330度ほどの褐色矮星14個を発見した。似たような低温の天体は、これまで片手で数えられるほどしか見つかっていない。その温度は、むしろ恒星のまわりを回る惑星の温度に近いが、これまでに知られているもっとも質量の小さな褐色矮星は、木星の5〜10倍ほどもある。

NASAジェット推進研究所のDaniel Stern氏は、「褐色矮星は、ある意味で惑星に似ていますが別のものです。それこそが興味深い点なのです。惑星ほどの質量の天体を研究するにはもっとも適しています」と話している。

褐色矮星は、質量が小さいために核融合反応を起こして自ら光り輝くことがないので、長年その観測が難しかった。しかし、昨年末に打ち上げられ、現在赤外線による全天サーベイを行っているNASAの赤外線天文衛星「WISE」が、今後同様の天体を数多く発見してくれるのではないかと期待されている。

NASAジェット推進研究所でWISE計画にたずさわる科学者Peter Eisenhardt氏は「WISEは、あらゆる領域をくまなく見ています。もっとも低温の褐色矮星も次々に発見されるでしょう。太陽系にもっとも近い恒星であるプロキシマケンタウリ(約4.2光年)よりも近い距離に褐色矮星が発見されるかも知れません」と話している。

スピッツァーが発見した複数の低温天体は、スペクトル型がT型(表面温度が摂氏1200度以下)に属すると考えられている。T型よりさらに低温のY型も存在が予測されており、いまだ発見されていないのだが、今回スピッツァーが発見した14個のうちの1つがY型かもしれない。

褐色矮星の研究で世界的に知られるDavy Kirkpatrick氏は、Y型の褐色矮星が本当に存在していれば、WISEによる発見は可能だとしている。同氏によると、WISEは、太陽系の果てに存在する氷に覆われた海王星サイズの天体を発見する能力を備えているという。そのような領域に発見される褐色矮星は、太陽の伴星であるかもしれないとの推測もある。

さらにKirkpatrick氏は、「2600万年周期で太陽に接近する仮想の特異天体が『Nemesis(ネメシス)』と呼ばれていますが、それに対して、理論上存在が予測されているこの褐色矮星をわたしたちは、『Tyche(テュケー)』と呼んでいます。しかし、まだその存在につながる証拠はひじょうに限られています。WISEは、その存在の有無に答えを出してくれるでしょう」と話している。

なお、スピッツァーが発見した14個の天体は、地球から数百光年の距離に位置しており、地上に設置された望遠鏡で分光観測をするには、あまりに遠い。しかし、スピッツァーによる発見は、太陽から25光年の範囲内にまだ100個以上も同様の天体が存在することを示唆している。そのような距離ならば、分光観測による確認も可能だ。今後の観測によって、わたしたちが描く太陽系周辺の光景が一変するのかもしれない。