水蒸気や氷の粒を噴き出す衛星エンケラドスに、噴出口を多数発見

【2010年3月1日 NASA Mission News

昨年11月にNASAの土星探査機カッシーニが土星の衛星エンケラドスに接近通過して観測を行い、水蒸気や氷の粒の噴き出し口を新たに多数発見した。


(カッシーニがとらえた南極のひび割れ「Baghdad Sulcus」の画像)

カッシーニがとらえた南極のひび割れ「Baghdad Sulcus」。熱放射の度合いは、紫、赤、オレンジ、黄色の順で強い。クリックで拡大(提供:NASA/JPL/GSFC/SWRI/SSI)

(カッシーニがとらえた大小の噴出の画像)

カッシーニがとらえた大小の噴出。クリックで拡大(提供:NASA/JPL/SSI)

(カッシーニがとらえた「Baghdad Sulcus」の3D画像)

カッシーニがとらえた南極のひび割れ「Baghdad Sulcus」の3D画像。クリックで拡大(提供:NASA/JPL/SSI)

土星の衛星エンケラドスの南極には、巨大なひび割れ(通称「タイガーストライプ(虎縞)」)が存在している。ひび割れからは、水蒸気や氷の粒を含むジェットが噴き出していて、地下に液体の水が存在しているかもしれないと注目を集めている。

カッシーニは、昨年11月21日にエンケラドスに約1,600kmの距離まで接近し、南極を観測した。同領域は今後太陽光の当たらない時期に入り、むこう約15年間にわたり暗闇に包まれる。そのため、この日は可視光カメラにとって最後の撮影チャンスとなった。

観測では、これまであまりよく知られていなかった領域や地殻変動によってつくられた南極の地形の画像が得られ、データから立体視画像も作成された。

また、1枚の画像に30を上回る噴出がとらえられた。その中には、今回初めて発見された20以上の小さな噴出が含まれている。また、噴出のうち少なくとも1つが、以前より勢いを失っていることもわかった。

カッシーニ画像解析チームのリーダーCarolyn Porco氏は、「これまで疑問に思っていたことを確認することができました。個々の噴出は時間によって変化しうること、大小多くの噴出が巨大なひび割れに存在しているということです」と話している。

そのほか、もっとも長いひび割れ「Baghdad Sulcus」の一部(長さ40km)の詳しい温度分布図が作成された。その結果、ひび割れに沿った幅1km以下という帯状領域が(周囲より)高い温度になっていることが示された。これは、水蒸気が吹き出ているひび割れの側面の熱ではないかと考えられている。

Baghdad Sulcusに沿った領域の温度は摂氏マイナス90度ほどだが、それよりさらに20度ほど高い可能性も示されている。カッシーニ赤外線分光器チームのJohn Spencer氏は、「ひび割れは、地球基準で考えると凍てつく温度です。しかし、摂氏マイナス220度という宇宙の温度に比べれば、温暖なオアシスです。巨大なひび割れから出る大量の熱は、地下の氷を溶かすにはじゅうぶんなのかもしれません」と話している。

カッシーニ計画に携わる研究者の間では、エンケラドスでは表面ほど暖かく、噴出口に近づくほどさらに温度が高くなるとの予測もあり、Spencer氏はそのことについて「もしそれが本当なら、エンケラドスは、太陽系において、豊富な有機物と水が存在し、かつ私たちにとって到達可能な領域となります」と述べている。