300年前に大爆発を起こしていた、天の川銀河の巨大ブラックホール

【2008年4月21日 宇宙科学研究本部

日本の研究チームが、われわれの天の川銀河(銀河系)の中心にある巨大ブラックホール「いて座A*」が300年ほど前に大爆発を起こしたことを明らかにした。いて座A*では、周囲から放出されるエネルギーが極めて低いことが大きななぞとされていたが、どうやら大爆発以降、ある種の休眠状態に入っているらしい。


(NASAのX線天文衛星チャンドラによる銀河中心付近のX線画像)

NASAのX線天文衛星チャンドラによる銀河中心付近のX線画像。黄色い矢印の先が「いて座A*」。クリックで拡大(提供:NASA/CXC/MIT/Frederick K. Baganoff et al.)

(分子雲「いて座B2」のX線画像)

分子雲「いて座B2」のX線画像。左上から時計回りに、1994年のX線天文衛星あすか、2000年のNASAのX線天文衛星チャンドラ、2004年のESAのX線観測衛星XMM-ニュートン、2005年のX線天文衛星すざく、による観測結果。実線、点線の円で囲んだ領域が5年ほどの間に明るくなったり暗くなったりしている様子がわかる。(提供:ASCA and Suzaku: JAXA; Chandra: NASA/CXC; XMM-Newton: ESA.)

いて座A*は天の川銀河の中心にある巨大ブラックホールで、太陽の400万倍もの質量を持つことが知られている。しかし、その周囲から放出されているエネルギーは、他の銀河の中心にあるブラックホールに比べて10億分の1と極めて低いレベルにあり、長年なぞとされてきた。

京都大学の乾達也氏がリーダーをつとめる研究チームは、日本のX線天文衛星あすかとすざく、NASAのX線天文衛星チャンドラ、ESAのX線観測衛星XMM-ニュートンによる観測結果を利用した研究で、いて座A*がなぜこれほど静かであるのかというなぞの解明につながる成果を発表した。

研究チームが明らかにしたのは、300年ほど前に銀河の中心で起きた爆発によって起きた分子雲の増光である。1994年から2005年の間に行われた天の川銀河中心の観測結果をつなぎ合わせることで、いて座A*の近くにある分子雲(ガスの雲)が、いて座A*から発せられたX線によって急速に明るくなり、ふたたび暗くなる様子が明らかとなったのである。

「いて座B2」と呼ばれるこの分子雲にX線がたどりつくまでには300年もの時間が必要である。つまり、分子雲の増光は300年前に銀河中心で起きた現象によって引き起こされたことになる。

乾氏は、「ブラックホールが過去には現在と比較にならないほど明るかったことがはっきりしたのです。たぶん、いまは大爆発のあとで、ちょっとお休みしているのでしょう」と話している。

また、研究チームの小山勝二京都大学教授は、「この分子雲が10年の間にどのように明るくなり、また暗くなって行くかを観測することで、われわれは300年前のブラックホールの活動の歴史を辿ることができます。銀河中心のブラックホールは300年前には現在に比べて100万倍も明るかったのです。それは信じられないほどの巨大フレアだったにちがいありません」と話している。

地球から銀河中心までの距離はおよそ2万6000光年である。このことは、われわれは今から2万6000年前のできごとを見ていることを意味する。いて座A*の活動性がこれほど変化する理由が完全に理解されたわけではない。

小山教授は、数百年前に銀河中心の近くで起きた超新星爆発が、周囲のガスをはき集めて銀河中心のブラックホールに供給し、これがブラックホールを眠りから目覚めさせ、巨大な爆発を引き起こすきっかけになった可能性があると指摘している。