すばる望遠鏡、110億年前の銀河の構造を解析

【2007年12月19日 すばる望遠鏡

現在の宇宙に分布する銀河は、大きく分けると「楕円銀河」と「円盤銀河」の2種類に分類できる。一方、すばる望遠鏡が世界で初めて明らかにしたところによれば、110億年前の宇宙ではほとんどの銀河が円盤銀河だった。謎に包まれていた銀河の歴史が、明らかにされようとしている。


(110億年前の銀河)

すばる望遠鏡がとらえた110億年前の銀河。1秒角の大きさは2万5千光年に相当する。クリックで拡大(提供:国立天文台、以下同)

(楕円銀河M87)

現在の宇宙における典型的な楕円銀河、M87

(円盤銀河M63)

現在の宇宙における典型的な円盤銀河、M63

われわれの天の川銀河は、円盤面に星が集中して集まった「円盤銀河」であることが知られている。天の川銀河の周囲に存在する銀河には、円盤銀河に加えてもう1種類、「楕円銀河」が存在する。楕円銀河では星が球状あるいは楕円球状に集まっている。いつ、どうやって、銀河は現在のように2種類の形になったのだろうか。

これまで、この問題はもっぱらNASAのハッブル宇宙望遠鏡(HST)の得意分野だった。HSTは80億年前の宇宙を観測し、現在と同じように楕円銀河と円盤銀河が存在することを明らかにしている。

当然、次の課題はさらに昔の銀河を調べることだろう。しかし、昔の銀河はそれだけ遠くに存在することになるし、おまけに実際のサイズも小さいことが予想される(銀河は合併衝突を繰り返して進化するため)。国立天文台、東京大学、京都大学の研究チームは、すばる望遠鏡と、地球の大気による光のゆらぎを打ち消す補償光学システム、近赤外線撮像分光装置を用いて110億年前の銀河を撮影した。その結果、いくつかの銀河について、その「骨組み」をとらえた。

銀河はさまざまな種類の恒星でできているが、全質量に占める割合がもっとも多いのは、われわれの太陽のような恒星だ。こうした恒星は可視光で輝くので、その光をとらえれば銀河の「骨組み」がわかる。ただし、110億年前の銀河が放った可視光は赤方偏移(解説参照)によって赤外線になるので、今回の観測には近赤外線撮像分光装置が使われた。

楕円銀河には、光が中心に集中しているという特徴がある。しかし、こうした構造を見せる銀河は1つしかなかった。ほかの銀河では光が広がっていて、円盤銀河の性質を示した。110億年前は、ほとんどの銀河が円盤銀河だったらしい。80億年前の時点では楕円銀河の割合が増えているということは、それまでの間に銀河の衝突合併が進行したことをうかがわせる。さらにその後は、現在に至るまで銀河の進化は穏やかだったと言えそうだ。

補償光学システムの限界により、今回観測できたのは限られた天域にある銀河だ。現在、あらゆる方向に適用できる補償光学システムが開発中で、科学観測に投入できるようになれば、昔の銀河の構造を調べる研究、ひいては銀河たちの歴史の研究が、一段と進むことが期待されている。

銀河までの距離はどうやって測る?

救急車のサイレンに代表されるドップラー効果と呼ばれる現象がある。接近中の音は波長が縮み、離れるときは波長が伸びる。実は光でも音と同じ現象が起こる。わたしたちに接近してくる光の波長は縮小し、離れていく星からの光の波長は伸びる。離れていく光は赤い方向へずれるため「赤方偏移」と呼ばれる。遠くの銀河の赤方偏移のデータからは、銀河の後退速度(移動速度)を求めることができる。後退速度と銀河までの距離は正比例の関係にある(ハッブルの法則)。したがって、銀河までの距離は、どのくらい赤方偏移を起こしているかを観測すれば後退速度がわかり、それをハッブルの法則に当てはめて、距離を求めることができる。(「150のQ&Aで解き明かす 宇宙のなぞ研究室」Q.100 銀河までの距離はどうやって測る? より一部抜粋 [実際の紙面をご覧になれます])