世界初、「かぐや」が月の裏側の重力場を直接観測

【2007年11月12日 JAXA 宇宙科学研究本部

月周回衛星「かぐや(SELENE)」が、観測機器の機能試験を行い、月の裏側の重力場を直接観測することに成功した。月の裏側の重力場が直接観測されたのは、世界で初めてのことだ。


(リレー衛星「おきな」の画像)

リレー衛星「おきな」。クリックで拡大(提供:JAXA)

(月の重力場の測定法)

月の重力場の測定法。(左)「かぐや」以前の2ウェイ測距・距離変化率計測、(右)「かぐや」のリレー衛星中継器(RSAT)による4ウェイドップラー計測。クリックで拡大(提供:JAXA)

宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、高度約100キロメートルの月周回観測軌道に投入した月周回衛星(主衛星)「かぐや(SELENE)」と、高度約2400キロメートル×100キロメートルの月周回長楕円軌道に投入されたリレー衛星「おきな」とを用いて、月の裏側の重力場の直接観測(4ウェイドップラー観測※)試験を11月6日に実施した。その結果、月の裏側の重力場について、正常に観測を行えることが確認された。

重力場を観測することは、月の地下構造を明らかにすることにつながる。地下に高密度の物質がある場合、その場所の重力はほかのところよりも大きくなる。そのため、月を周回する衛星はその重力に引っぱられ加速し、軌道が変化する。このことを利用し、衛星の位置や速度の変化を時々刻々測定すると、直接見ることのできない月の地下の構造を推定することが可能となる。

このような重力のムラは「重力異常」と呼ばれ、その測定は地球に対しても、月の表側に対しても行われている。しかし、月の裏側では衛星が見えなくなってしまうために、これまで直接測定することはできなかった。

「かぐや」では、月の上空を低高度で周回する主衛星の動きを、少し高い高度で周回するリレー衛星「おきな」を使って中継(4ウェイドップラー観測※)することで、主衛星が月の裏側に回りこんでいるときにもその動きを逐一測定することができる。この観測方法によって、世界で初めて月の裏側の地下の構造を直接推定することを可能にしている。

12月に開始される本格的な測定では、月の表側と裏側で表面の構造以外にどのような違いがあるのか、また、月が地球に常に表側を向けていることと月の地殻の厚みとの関係など、新たな発見となぞの解明が進むことが期待されている。

かぐや(SELENE)公式ロゴ

アストロアーツは、
月周回衛星「かぐや(SELENE)」を
応援しています。

(C)JAXAかぐや Campaign


《 ※4ウェイドップラー観測とは 》

主衛星が月の裏側にいて地上から直接観測できない間に、「おきな(リレー衛星)」がJAXA臼田宇宙空間観測所(臼田局:長野県佐久市)からの基準信号を主衛星に中継する。さらに、主衛星から折り返し送信されたこの信号を、「おきな」を経由してJAXA臼田局で受信。この計測方法は、4つの回線(臼田局→「おきな」→主衛星→「おきな」→臼田局)を通るため、「4ウェイドップラー観測」と呼ばれる。このようにすると、臼田局に戻ってきた信号は、主衛星が動いているために元々の周波数からずれている(ドップラーシフト)。したがって、この周波数のずれは、主衛星の軌道の変動を反映し、その結果、月の裏側の重力場の分布を反映することとなる。この手法により、月の裏側の正確な重力場を測定することができる。

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