暗黒星雲を突き破る星の「ひな」

【2007年5月18日 CfA Press Release

NASAの赤外線天文衛星スピッツァーが、生まれたばかりの恒星が暗黒星雲の中で派手に活動しているようすをとらえた。目に見える光では真っ黒にしか見えない星雲だが、その中は光に満ちている。若い星から吹き出すジェットは、赤外線の目には虹色に写った。


BHR 71の画像

BHR 71。左は大型望遠鏡VLTによる可視光画像、中央はスピッツァーによる赤外線画像、右は両者を重ねたもの。赤外線画像は、3種類の赤外線で撮影したデータを重ね合わせた疑似色画像。クリックで拡大(提供:NASA/JPL-Caltech/T. Bourke (CfA))

BHR 71は、はえ座の方向約600光年の距離に存在する星雲で、可視光画像(3つの画像のうち左、大型望遠鏡VLTが撮影)では黒いかたまりにしか見えない。ただ、雲を突き破る黄色い光だけが、中に何かが存在する可能性を示している。

一方、赤外線は星雲にさえぎられにくいので、赤外線天文衛星スピッツァーはBHR 71の中を見通すことができる。その画像(3つの画像のうち中央)には、星雲を貫く虹色の筋が見える。可視光で見えていたのは、この構造が星雲の外へ吹き出している部分だったのだ。

筋の正体は、誕生したばかりの恒星から2方向へ吹き出すジェットである。赤外線データを元にしてつけられた疑似色は、温度に対応していて、赤は低温、緑は高温のガスである。ジェットの色が変化していることは、若い恒星が放つのは安定した光とジェットだけではないことを示唆している。間欠的に大量のエネルギーを放出していて、それがジェットをさらに加熱しているらしい。そのエネルギーもジェットの中を伝わるにつれて衰え、遠くのジェットには大して影響していないようだ。

画像を注意深く見ると、中央のジェットと重なるように、左下と右上に伸びる別のジェットが確認できる。そのほか、可視光では写らなくても赤外線で明るく輝く星がたくさん見られる。これらはすべてBHR 71の中で生まれた恒星だ。光をさえぎる黒いかたまりに見えるBHR 71も、実際には無数の星の材料となる卵なのだ。可視光画像で黄色に光っているのは、星の「ひな」が殻をつつき割り始めたところだと言える。

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