太陽を逆回りする小惑星、その正体は彗星だった

【2007年5月10日 CBET】

すべての惑星は、太陽の周りを同じ方向に公転している。これはほとんどの小惑星にも当てはまり、地球と逆方向に回っている小惑星はごく最近まで知られていなかった。現在知られているごくわずかな例外たち―「逆行小惑星」―には、その軌道の特異性から、もともと彗星だったと推測されるものがある。その1つ、小惑星「2006 WD4」からガスが吹き出ているのが見つかり、彗星「C/2006 WD4」となった。


現在知られている小惑星の数は30万個を超えるが、そのうち逆行小惑星は十数個しか存在しない。太陽系の惑星や小天体は、もともと原始太陽を取り巻いて回転する物質の円盤から生まれた。それに反する逆行小惑星が生まれた原因としては2通り考えられる。1つは、巨大な惑星の近くを通過し、惑星の重力で軌道が変化した場合。もう1つは、もともと彗星であった場合だ。

彗星は、太陽系の外側から内側に迷い込んできた天体だ。

太陽に近い天体は、ほぼ地球と同じ面に沿って公転しているが、外側に行くほどその傾向は薄れる。現在続々と発見されている太陽系外縁天体(海王星よりも外側を公転する天体)には、軌道の面が地球に対して30度以上傾いているものも珍しくない。この傾きが90度を越えている場合、「公転の向きが地球と逆行している」と言いかえられる。まだ発見されていないものの、太陽系の最果てにある「オールトの雲」と呼ばれる領域では、もはや天体はあらゆる向きに動いていると考えられている。

逆行している太陽系天体の大部分は彗星だ。したがって、逆行小惑星は「ガスが蒸発していない潜在的な彗星なのではないか」として注目される。

「2006 WD4」は2006年11月20日(世界時、以下同様)に米・アリゾナ州のレモン山(Mt. Lemmon)天文台の観測から小惑星として発見された。軌道の傾きおよそ150度の逆行小惑星であったが、その姿は点にしか見えず、物質を放出しているようすは見られなかった。そのまま4月下旬に太陽最接近を迎え、観測しにくい状態になっていた。

ところが、南半球で観測できるようになった4月30日、2006 WD4をとりまく長さ20秒角のコマ(淡い光)が発見された。これはガスが蒸発することで形成されたもので、彗星の特徴にほかならない。逆行小惑星が彗星だったと判明したのはこれが初めてではないが、発見の経緯はユニークだ。観測を報告したE. Guido氏とG. Sostero氏はイタリアの観測者である。オーストラリアにある望遠鏡をリモート制御して彗星を撮影したのだ。しかも、観測条件があまり良くない中、口径15センチメートルという小さな望遠鏡による快挙だった。

「2006 WD4」は小惑星としてつけられた符号だ。今回の発見で、彗星に与えられる「C/」がつき、C/2006 WD4と表記されることとなった。もちろん、発見者(今回の場合は天文台)の名前をつけて「レモン彗星」と呼ぶこともできる。

日本でレモン彗星が観測できるのは5月23日ごろからである。この日は12等級で夕方の空に見えると予想されるが、そのあとは急速に東へ移動しながら減光し、6月初めには15等級となる計算だ。

彗星 C/2006 WD4(Lemmon)の軌道要素 (村岡健治氏の計算による)

軌道要素

近日点通過(T)2007年4月28.39535日
近日点距離(q)0.5912081天文単位
離心率(e)0.9989912
近日点引数(ω)292.69282゚ (2000.0年分点)
昇交点黄経(Ω)226.79081゚ (同上)
軌道傾斜角(i)152.70388゚ (同上)
元期(Epoch)2007年4月10.0日

《ステラナビゲータで彗星の見え方をシミュレーション》

レモン彗星(C/2006 WD4)の位置を天文シミュレーションソフトウェア「ステラナビゲータ Ver.8」で表示して確認できます。ご利用の方は、ステラナビゲータを起動後、「データ更新」を行ってください。

<参照>

  • CBET 952: COMET C/2006 WD4 (LEMMON)

<関連リンク>