記録的に明るい変光星ミラ−変光のしくみと観測の歴史

【2007年2月23日 アストロアーツ】

とても明るいと言われているくじら座の変光星「ミラ」。実際には、どれくらいすごい記録なのか?そもそも、どのようなしくみで明るさが変化するのか?月刊「星ナビ」で変光星のコーナーを担当されている、滋賀県ダイニックアストロパーク天究館の高橋進さんから解説をお寄せいただきました。


歴史的な明るい極大を見せた変光星ミラ

(23日午後8時、東京の空)

23日午後8時、東京の空。あいにくすぐ近くに月が出ているが、現在のミラの明るさならかき消されることはないはずだ。クリックで拡大(ステラナビゲータ Ver.8で作成)

(ミラの光度曲線)

ミラの光度曲線(提供:高橋進氏、VSOLJメーリングリストデータより作成)

夕方の西空でくじら座のミラが明るく輝いていることはこれまでのニュースからも伝えられていますが、今回の極大は歴史的に明るい極大であることがわかりました。

恒星はその進化が進むと中心部が高温になり、大きく膨張していきます。こうした赤色巨星の内部で発生した振動は通常はしばらくすると減衰していきますが、恒星内部に電離した物質と電離していない物質が混在した臨界層が存在すると、これがバネの役割をして振幅を持続させます。また恒星内部の対流の周期と振幅の周期が整数倍になる場合もお互いが共鳴して振幅を持続させます。こうした条件が整った場合に持続的な脈動が継続した変光星になります。こうした変光星の中でも長周期で変光の幅が大きく、周期性が割合とよいものを、ミラ型変光星と呼んでいます。なお脈動変光星の場合もっとも明るくなるのは直径がもっとも小さくなった少し後になります。また極小は直径が最大になった少し後です。恒星が脈動で収縮すると内部の温度は上昇していきます。この温度上昇が可視光を増大させて明るくなるわけです。いっぽう膨張すると温度が低くなり、それにより酸化チタン分子が形成されます。酸化チタンが可視光を吸収することによりミラはさらに暗くなるわけです。ということで現在の極大期のミラというのは収縮から膨張へと転じようとしている状態と思われます。

日本での変光星観測は1900年ごろの一戸直蔵より100年あまりの歴史を持っていますが、この100年間のうちでミラがもっとも明るくなった記録は1906年12月に一戸が記録した2.1等です。今回の極大では2月17日の平均等級で2.05等、もっとも明るい報告は1.9等で、日本における変光星観測史上もっとも明るい極大と言えます。またそれ以前の記録では1779年に1.2等という記録があります。これまでに調べた限りではこれ以降に1.9等をこえる記録は残されていません。その意味では1779年以来の明るい極大といいたいところですが、海外での記録でまだ未確認のものもありますので、はっきりしたところはまだ言えません。しかしいずれにせよ歴史的な極大であったのは間違いのないところです。

極大期のミラはしばらく平坦な光度曲線を描くことが多く、ときには一度減光したあと再度明るくなりふたこぶの光度曲線を見せる場合もあります。ただ明るい極大の場合はその後急激に減光する場合もあるので、引き続き注意深い観測をお願いします。またその後はゆっくりと光度を下げていき、今年の10月末頃に9等前後の極小になるかと思われます。今回のきわだって明るい極大と次にくる極小を併せて撮影するのもいい撮影対象かとも思います。今回の歴史的に明るい極大をぜひお楽しみ下さい。