天の川の中心で響く「光のこだま」

【2007年1月26日 Chandra Photo Album

NASAのX線天文衛星チャンドラが、われわれの天の川銀河の中心で起こっている「光のこだま」を観測した。この現象は、いて座A*と呼ばれる巨大ブラックホールが付近の星間物質を次々と間接的に照らすことで発生している。


銀河系中心の「光のこだま」を捉えたX線画像

いて座A*から約50光年の距離にある「光のこだま」のX線画像。クリックで拡大(提供:NASA/CXC)

「光のこだま」のイラスト

「光のこだま」のイメージ図。アウトバーストから「光のこだま」が形成されていくようすが描かれている。クリックで拡大(提供:NASA/CXC/M.Weiss)

いて座A*は太陽の300万倍もの質量を持つ巨大ブラックホールだ。そこに50年ほど前、太陽系の惑星でいえば水星(太陽の600万分の1の質量)程度に相当する物質が流れ込んだことで、現在「光のこだま」が起こっているらしい(厳密には、いて座A*は2万6000光年離れているので、物質が流れ込んだのも今見えている光が放たれたのも2万6000年ほど前のことだが、ここでは考えない)。

巨大ブラックホールが物質を飲み込むと、X線のアウトバースト(爆発現象)が起こる。このX線が周囲の星間物質に到達すると、星間物質中に含まれる鉄原子に影響を与え、鉄からはあらゆる方向にX線が再放射される。ちょうど蛍光物質と同じような反応が起こっているのだが、結果としてはX線がわれわれの方向にはね返ってきたとも言える。

X線アウトバーストが起こったときに、直接地球の方向へ飛んできたX線は50年前にしか観測できなかった。だが、別の方向へ向かったX線も、蛍光現象によって時間差をおいて見られるのだ。アウトバーストから50年たった現在見えているのは、いて座A*からほぼ50光年離れた星間物質の蛍光だ。

観測は2002年、2004年、2005年に行われている。同じ領域の観測画像を比較することで、星間物質の形や明るさが変化しているかのように見える。まるで光がこだましているかのように。

「光のこだま」を観測することで、アウトバーストを起こしたいて座A*の活動はもちろん、照らされている星間物質についても貴重な情報が得られる。天の川銀河中心付近に漂うガスについては謎が多く、今回のような現象が起こって初めて「光を当てられる」のだ。

なお、リリース元では動画“Light Echo at Galactic Center Animations”として天の川銀河内での「光のこだま」の領域を示した動画(Images of Light Echo at Galactic Center)や2002年、2004年、2005年のガス雲の変化を比較した動画(Variability in Chandra Images of Light Echo)などが公開されている。

巨大ブラックホール

巨大ブラックホールは銀河の中心にあり、太陽質量の100万倍〜10億倍に達する強大なもので、恒星進化の末に生まれるブラックホールと区別される。これらの巨大ブラックホールの質量は、ほぼ銀河の質量に比例しているため、銀河の進化の過程において重要な役割をしていると考えられている。(「最新デジタル宇宙大百科」より)