生命のもとは、どこからきたか

【2006年8月18日 NRAO Press ReleasesUniversity of Michigan News Release

生命のもととなった物質は、一体どこでどのようにして作られ、どうやって地球にもたらされたのか。この興味深い疑問に関する研究成果が発表された。生命誕生につながる化学的なプロセスは、恒星や惑星をも生み出す巨大なガス雲の中で地球誕生以前に始まっていたいうのだ。また、生命に欠かせない重要な物質である窒素に着目した研究から、なぜ彗星や隕石の中に窒素分子が検出されないのかという疑問に1つの答えが出された。


生命分子の起源は星間雲

(宇宙で起きる化学的な物質サイクルの概念図 (グリーンバンク望遠鏡と8つの新しい分子の構造

(上)宇宙で起きる化学的な物質サイクルの概念図(提供:Bill Saxton, NRAO/AUI/NSF)、(下)グリーンバンク望遠鏡と8つの新しい分子の構造。ともにクリックで拡大(提供:NRAO/NSF)

グリーンバンク望遠鏡の観測で、星間雲中に生命に関連のある8つの新たな分子が発見された。この分子の発見から、生命誕生に関わるプロセスは特別な環境下で引き起こされるのではなく、宇宙的規模でたえず進行している可能性が示された。

NASAのゴダード宇宙センターの研究チームが発表した内容によれば、われわれの地球が形成される以前からすでに、生命誕生につながる化学的なプロセスが、恒星や惑星をも生み出す巨大なガス雲の中で始まっていたというのだ。

グリーンバンク望遠鏡によって星間雲の中に発見された分子は全部で141種。内8つが新しい分子である。発見された8つの分子はすべて炭素を含んでおり、6から11個の原子から構成されている。実際、約9割の星間分子は炭素を含んでおり、炭素は有機物に分類される。このことが示すのは、生命に関わるような化学的な進化がたえずガスやちりの中で進んでいるということだ。

生命のもととなる物質が宇宙でどのようにして作られたのかという疑問の答えを探そうと、35年間にわたって宇宙空間における複雑な分子探しが行われてきたが、「今回の発見は、長年のなぞ解決へ向けた重要な功績といえるだろう」と研究チームリーダーであるNASAのゴダード宇宙センターのJan M. Hollis氏は話している。

生命のもとは、やはり彗星の中にあった?

一方、ミシガン大学とハーバードスミソニアン宇宙物理センターの研究家は、彗星内部に生命を作るもととなる分子が存在しているのではないかという研究結果を発表した。

なぜ、窒素分子が彗星や隕石の中に検出されないのか、これは長年科学者を悩ませてきた。彗星は、初期の太陽系を漂っていたガス雲の中に存在していた。この雲の中に窒素が分子の形で存在しており、彗星も窒素分子を含んでいるはずと考えられているからだ。また、冷たく暗い太陽系の外で生まれたことから、太陽系形成時の影響も化学的にはほとんど受けていないはずなのだ。

彗星を作るもととなったガス雲に窒素分子が存在しない理由について、ミシガン大学の研究家たちは次のような答えを出している。その理由は、ガス雲の中の窒素のほとんどは原子の形で存在していて、決して以前から考えられてきたように分子の形ではないためだというのだ。

彼らによるシナリオは、はるか昔に地球上で、彗星がもたらした窒素を含んだ分子によって生命誕生の最初の引き金が引かれ、やがて分子は複雑な構造へと変化したというものだ。多くの生命体分子は単純なものも複雑なものも、すべて窒素をもっている。窒素原子から複雑な分子を形成するのは容易なのだ。代表格であるアミノ酸をはじめ、すべてのDNAを構成する塩基は、窒素を含んでいる。さらにいえば、もっとも単純な物質の形である原子の形の窒素は、より相互作用しやすく、このことは生命を誕生させるもととなる複雑な物質も宇宙においては簡単に形成されるということになる。そして、形成された複雑な物質が彗星によって地球にもたされたと考えられるわけだ。