マーズ・エクスプレス画像集:「カオス地形」とカルデラ

【2006年7月18日 ESA News (1)(2)(3)

火星のいたるところに見られる複雑な地形は、その成り立ちも単純ではなさそうだ。ESAの火星探査衛星マーズ・エクスプレスが撮影した中から、「カオス」と呼ばれる凹凸の入り交じった地形と、巨大なカルデラの画像を紹介しよう。


その名も「カオス」と呼ばれる複雑な地形

(アラム・カオスの画像)

アラム・カオス。画像右が北の方向、クリックで拡大(以下同)(提供:ESA/DLR/FU Berlin (G. Neukum))

「アラム・カオス」は半径280キロメートルのほぼ円に近い形をした地形で、小天体の衝突で形成されたクレーターと思われる。注目すべきはその輪郭よりも、複雑な凹凸が見られる内部の地形だ。この画像はアラム・カオスの南東部を撮影したものだが、無数の筋に区切られた岩石がパズルのピースのように見える。このように、大小さまざまな岩石ブロックがランダムに配置されているような地形は「カオス地形」と総称され、マリネリス峡谷(赤道付近に横たわる火星最大の峡谷)の東側に数多く存在する。

1つ1つの「ピース」は幅が数キロメートルから10キロメートルほどで、高さは約1キロメートル。「ピース」の周りは、水が流れたことなどによって削り取られたとみられる。場所によっては浸食が激しく、「ピース」自体も丸くなってしまっている。

一方で、画像の上の方(西に相当)は全体的になだらかで、色も薄い。こちらは逆に物質が流されてきて堆積したために作られた地形と考えられている。陥没で浮かび上がった「ピース」とは対照的に、堆積物が積み重なってできあがった高台もある。見かけの複雑さどおりにさまざまな要因が重なり合って作ったこの地形は、「アラム・クレーター」ではなく「アラム・カオス」と呼ばれるにふさわしい。

カオス地形は火星の水源地だったかもしれない

(イアニ・カオスの画像)

イアニ・カオス。アラム・カオスにごく近い、西側の領域のクローズアップ(提供:ESA/DLR/FU Berlin (G. Neukum))

カオス地形が注目されるのは、その複雑な外見だけではない。マリネリスをはじめとした、火星の巨大峡谷について考察する上で欠かせない存在だからだ。

この画像はアラム・カオスの南東にある「イアニ・カオス」のクローズアップだ。アラム・カオス同様、パズルのピースのような岩石ブロックが数多く見られる。注目すべきは、比較的なだらかな画像右上(北西に相当)部分だ。よく見ると、円形にへこんだ構造が数多く見られる。もともと地下に存在した水や氷が流れ出た結果、陥没した地形と考えられている。

イアニ・カオスは1500キロメートルにもわたって伸びる「アレス峡谷」の一端にある。反対側にあるのが、低地でほとんどクレーターのない「クリセ平原」。クリセ平原にはアレス峡谷のような峡谷が数多くつながっているが、かつてそこに海と川(もしくは氷河)があったのかもしれない。逆にたどれば、イアニ・カオスがアレス峡谷の水源だと考えられる。このようなカオス地形と峡谷の関係は他にも指摘されている。

なだらかな火山と巨大なカルデラ

(アポリナス・パテラ火山の画像)

アポリナス・パテラ火山のカルデラのクローズアップ(提供:ESA/DLR/FU Berlin (G. Neukum))

火星の地形として忘れてはならないのが火山だ。この画像はその1つ、「アポリナス・パテラ」を撮影したもの。アポリナス・パテラのすそ野は180×280キロメートルにわたって広がっているが、中央が陥没して直径80キロメートルのカルデラが形成されている。外輪の標高は最高5キロメートル。カルデラの深さはおよそ1キロメートルだ。

なお、画像は疑似カラーで、青く写っているのは薄い雲である。

火星の表面

火星には水や風、火山活動で浸食された跡が随所に見られ、とくに水の浸食や堆積でできたと思われる地形が多いのが特徴です。かつて水が豊富にあったとしたら、標高が低い北半球に海が広がっていたことでしょう。(「太陽系ビジュアルブック」より抜粋)