「銀河の胎児」発見か

【2006年7月10日 ESO Science Release

ヨーロッパ南天天文台(ESO)の超大型望遠鏡VLTが、100億光年以上離れたところにある巨大な塊を発見した。その正体は、大量のダークマターに、ガスが引き寄せられ集まっている現場である可能性が高い。そうだとすると、まさに銀河が誕生しようとしている状態を見ていることになる。


(様々な波長で撮影された塊周辺の画像)

新たに見つかった塊の周辺。左はHSTによる可視光画像、右下は地上の望遠鏡による青と赤の波長による撮影画像。いずれにも塊の姿はないが、右上(左寄り)にあるVLTの505ナノメートルで撮影した画像には写っている。右は拡大・強調した画像。クリックで拡大(提供:ESO)

ここ数年、宇宙のはるか遠方で巨大な「塊」が相次いで見つかっている。サイズは私たちの銀河と同じかそれ以上なのに、比較的暗い天体のことだ。その正体として、隠れたクエーサーとする説や、爆発的なペースで星が誕生している銀河とする説があるが、もう1つおもしろい説がある。まだ星になってないガスが、ダークマターの塊に降着しながら輝いているとする説だ。最近の研究では、これこそがガスから銀河が生まれる過程だと考えられている。しかし、これまで決定的証拠が見つかったことはない。

そんな中、VLTの観測で新しい塊が見つかった。この塊は、われわれから116億光年離れた位置にある。宇宙が誕生してから20億年しかたっていない頃の天体だ。直径は20万光年、つまり天の川銀河の2倍ある。一方、放射されているエネルギーは太陽20億個分程度だ。ヨーロッパの研究チームは波長505ナノメートル前後の光で観測を行った。これは、水素原子から放射された光が116億光年分の赤方偏移を受けて地球に届いたときの波長である。この過程で、チームは他にもいくつかの塊を発見している。

今回見つかった塊が特別なのは、505ナノメートルの波長だけでしか観測されていないことだ。X線観測衛星チャンドラ、赤外線宇宙望遠鏡スピッツァー、さらにはハッブル宇宙望遠鏡HSTなど、宇宙や地上からあらゆる望遠鏡があらゆる波長で同じ領域を撮影しているが、塊の姿が写っているのは、505ナノメートルで撮影したVLTの画像だけであった。このような特徴を持った塊は、他にない。

塊がクエーサーや爆発的星形成の現場であったとしたら、このような観測結果はありえない。決定的とはいえないが、ダークマターにガスが吸い寄せられている状況だとするのがもっとも妥当であると研究チームは考えている。何億年もの時間がたてば、そこには銀河、それも天の川銀河程度の大きさの銀河が誕生しているかもしれない。