ハッブル宇宙望遠鏡が見た、銀河合体の最終段階

【2006年6月22日 Hubble Newsdesk

NASAのハッブル宇宙望遠鏡HSTが、2つの銀河が1つに融合しつつある姿を撮影した。そこではガスやちりはひじょうに狭い範囲に押し込められ、爆発的なペースで星が誕生し巨大な星団を作り上げている。


(Arp 220の画像)

HSTACSが可視光で撮影したArp 220の姿。クリックで拡大(提供:NASA, ESA, and C. Wilson (McMaster University, Hamilton, Ontario, Canada))

ハッブルが撮影したのはへび座方向、2億5000万光年の距離にある特異銀河Arp 220。2つの銀河が合体する最終段階にある天体だ。複数の銀河が遭遇することで形成される「衝突銀河(解説参照)」としては触角銀河などが有名だが、2つの銀河がはっきり確認できる触角銀河とは違って、Arp 220はHSTの目でも1つの銀河のようにしか見えない。電波観測から、かつて2つの銀河の中心核であったと思われる天体が、1000光年の距離をおいて存在することがわかっている。

合体のさなかにある銀河としては、Arp 220はわれわれからもっとも近いものの中の1つで、その中でももっとも明るい。宇宙の初期には銀河の合体はもっと頻繁に起きていたと考えられるので、当時の様子を知るためにArp 220は研究する意義がある。

Arp 220でもっとも目を引くのは、爆発的なペースで星が作られる様子だ。HSTの画像には巨大な星団が200個以上写っている。一番大きいものは太陽1000万個分の質量を持つが、これは天の川銀河最大の星団の2倍だ。これだけ巨大な星団でも、星々は狭い空間に押し込められているのでHSTの目にも1つの明るい星としか写らない。星形成領域自体もとても狭く、範囲は5000光年と天の川銀河の直径の5パーセントしかないが、そこにあるちりとガスの量は、天の川銀河全体で存在する量に匹敵する。

しかも、HSTが可視光で撮影した星は氷山の一角に過ぎない。Arp 220の光の大部分は、銀河全体を包むちりに隠されてしまうからだ。仮にちりが存在しなければ、Arp 220の光度は天の川銀河の50倍にもなるという。ただし、ちりは可視光などを吸収して暖められる代わりに赤外線を放射するので、Arp 220のように爆発的に星が生成されている天体は「超光度赤外線銀河(ULIRG)と呼ばれる。

星団の年齢を測定したところ、1000万歳よりも若いグループと7000万歳から5億歳の間のグループにわかれた。実際に星形成が2回に分かれて起きているのか、たまたま中間のグループが観測されていないのかは不明だが、7億年前に始まったとされる2つの銀河の衝突が、何億年にもわたって影響を及ぼし続けていることは確かだ。さて、このペースでガスを消費して星が作られると、4000万年後にはガスをすべて使い切る計算となる。銀河的スケールで見れば一瞬である。そのころには、Arp 220は楕円銀河へと姿を変え、今ある巨大星団のいくつかは、まだ輝き続けているだろう。

衝突銀河

複数の銀河が接近遭遇し、お互いの重力作用でそれぞれの銀河の形態や性質に大きな変化を生じる現象。場合によっては、銀河が合体してしまうケースもある。銀河の衝突によって、星間物質の圧縮などが行われ、特異な形に変形したり、爆発的な星形成(スターバースト銀河)が引き起こされると考えられる。銀河団の中心部に見られる巨大な楕円銀河(たとえば、おとめ座銀河団のM87)は、銀河の合体によって徐じょに大きくなったと推定される。(最新デジタル宇宙大百科より 一部抜粋