磁気嵐注意報発令? 太陽の「気象予報」

【2006年3月24日 Science@NASA

地球上の天気予報も難しいが、さらに難しい太陽の「気象予報」に挑んでいる科学者がいる。その「予報」によれば、これから太陽活動は過去50年でもっとも活発な時期を迎えるとのことだ。自分の街以外の天気予報でさえ気にしていないのに、地球外の活動現象なんて…と思ってはいけない。太陽の活動は地球でも磁気嵐を起こして、電波障害を起こす可能性がある。


(2004年11月に北海道で見られたオーロラの写真 (海洋ベルトコンベアの概念図

(上)2004年11月に北海道で観測されたオーロラ。この時期太陽活動に伴い北海道を中心に低緯度オーロラが観測されたが、果たして活動極大期にはどのようなオーロラが見られるか(提供:津田 浩之)(下)海洋ベルトコンベアの概念図。ともにクリックで拡大

いつも変わらず輝いているように見える太陽にも、活動の強弱がある。例えば、現在は活動の極小期で、表面の黒点(注釈参照)はほとんど消えて、フレア(注釈参照)はあまり見られない。逆に極大期には黒点もフレアも数多く見られる。しかし同じ極大期でも、1805年にはほとんど活動が見られなかった一方、1958年の極大期は歴史的なもので、地球上での現象にも大きく影響を及ぼした。普段極地方でしか見られないオーロラが、中米のメキシコでも見えたのだ。日本でも、北海道や東北地方でオーロラが観測されている。

こうした活動が11年周期で変動していることは2世紀ほど前から知られていたが、次の極大がどれほど強いかという予測は非常に困難で、多くの科学者を悩ませてきた。新たな理論を元にこの難題に挑戦しているのが、米国立大気研究センター(NCAR)のディクパティ(Mausumi Dikpati)氏が率いる研究チーム。「次の極大期は、前回の30〜50%も強力なものとなる」とディクパティ氏は予想する。それは、数年後にやってくる太陽活動のうねりが、1958年以降では最大規模であることを意味している。

太陽活動に人々が向ける関心は、1958年よりも強いだろう。1958年に携帯電話は存在しなかった。GPSや気象衛星もない(1957年に人類初の人工衛星であるスプートニクが打ち上げられたばかりだ)。これらはすべて、太陽活動に伴う磁気嵐の影響を受ける。他にも様々な電子機器で、障害が発生する可能性がある。そうだとすれば、現在の太陽活動極小期はまさに「嵐の前の静けさ」だ。

予測が難しかった太陽活動の強弱。その鍵を握るとしてディクパティ氏が提唱しているのが、「太陽ベルトコンベア」というモデルだ。

このモデルは、地球の「海洋ベルトコンベア」と似たような発想だ。「海洋ベルトコンベア」とは海洋から海洋へ水と熱を運ぶ地球規模の循環で、映画「デイ・アフター・トゥモロー」の中ではこの水の流れが止まることで大規模な気象異常と混乱が発生する様子が描写されている。

一方、「太陽ベルトコンベア」は水ではなく、プラズマの流れだ。太陽の表面を赤道から極地方まで移動し再び赤道地方へと循環する。「海洋ベルトコンベア」が地球の気象に影響を与えるのと同様、「太陽ベルトコンベア」も太陽活動に強く関係しているのだ。米国立宇宙科学技術センター(NSSTC)の太陽物理学者ハサウェイ(David Hathaway)氏は太陽活動を代表する黒点をとりあげ、太陽ベルトコンベアとの関係をこう説明する:

「まず、黒点というのは太陽内部のダイナモ(電流と磁場を発生させる作用)が作り出す磁場が絡み合った『結び目』であることに注意してください。普通黒点は数週間で消えてしまい、後には『残がい』とも言うべき弱い磁場が残されます。さて、ベルトコンベアが太陽の表面をすくう際に、黒点の残がいも回収してきます。やがて残がいはベルトコンベアとともに太陽の内部20万キロメートルの深さへと潜り込みます。ここで太陽内部のダイナモによって、残がい(磁場の結び目)は転生(増幅)し、再び表面に浮かび上がったときに新しい黒点が誕生するのです」

このプロセスは非常にゆっくりと進行する。ベルトが一巡するのに要する時間はおよそ40年だが、遅くて50年、速くて30年とばらつきがあるのがミソだ。ベルトが速く回れば、より多くの残がいが回収され、その分浮上してきたときの黒点、そして黒点に代表される太陽活動は強くなるのだ。

1986年から1996年にかけて、ベルトは速く動いていた。とすれば、この頃回収された磁場が再浮上するころに黒点、そして太陽活動のピークがやってくることになる。では、その時期は具体的にいつごろだろうか?

二人の「予報士」は同じモデルを使って考えているが、極大の時期に関する見解は少々異なっている。ディクパティ氏が本来の11年周期通り2012年頃と予想しているのに対し、ハサウェイ氏は2010年か2011年には極大が到来するだろうと見る。「歴史的に見て、活発な極大期の際は(黒点などの太陽活動が)早く成長する傾向にあるのです」

いずれにせよ、嵐の到来は間違いなさそうだ。各地でオーロラが見られることに期待はしたいが、この50年間で急激に発達した電気機器への影響があまり深刻でないことを願いたい。


黒点 : 黒点は光球の温度が低い部分で、周囲より暗いため黒く見えています。対流層を走る磁力線が、ねじれた自転の影響で表面から飛び出すと、そこが黒点になります。黒点は太陽活動周期のバロメーターです。太陽は約11年周期で活動の強弱を繰り返していますが、活動が活発になると黒点も増えます。

フレア : フレアは、彩層で起こる大爆発です。局所にエネルギーが集中したときに一気に発生します。フレアが起こると、X線などの電磁波や、高エネルギーの電気を帯びた粒子が飛び出し、地球に磁気嵐やデリンジャー現象をもたらします。
(「太陽系ビジュアルブック」より一部抜粋)