ここまでわかった、「第三のブラックホール」の正体

【2006年1月28日 NASA FEATURE

NASAのX線観測衛星RXTEが、ブラックホールの周りを回る巨星の存在をとらえた。ブラックホールの正体は太陽の100〜1万倍の質量をもつ「中間質量ブラックホール」ではないかとみられている。超新星爆発によって生まれる「恒星質量ブラックホール」と、銀河の中心に存在する「超大質量ブラックホール」に関しては研究も進んできたが、この「第三のブラックホール」については謎が多い。ブラックホールに大量のガスを供給しながら回転する巨星が、その解明に貢献すると期待されている。


X線観測衛星チャンドラが撮影したM82銀河の中心領域の画像

X線観測衛星チャンドラが撮影したM82銀河の中心領域の画像(緑十字が銀河の中心、右にある明るい点がM82 X-1)。三ヶ月の間に急激な増光を示しており、ブラックホールとみられる。小さすぎて画像には写らないが、X線観測衛星RXTEの観測から周囲を回転する星の存在が示唆されている(提供:NASA/SAO/CXC)クリックで拡大

ブラックホールといえば、これまで大きく二種類に分けることができた。1つは、「恒星質量ブラックホール」とも呼ばれる、太陽数個分の質量を持つグループで、われわれの銀河系にも数100万個存在している。そしてもう1つは、太陽の数100万から数10億倍の質量を持つ、「超大質量ブラックホール」と呼ばれるグループで、こちらはほとんどの銀河の中心核に存在すると考えられている。恒星質量ブラックホールが大質量星の重力崩壊によって生まれるのに対して、巨大ブラックホールは、おそらく銀河が形成される過程で大量のガスが集積して誕生したのではないかと考えられている。

ところが、過去10年の間に、観測衛星によって新種のブラックホールが存在する証拠が続々と見つかっている。おそらくその質量は太陽の100〜1万倍だが、正確な質量や成因については議論が続いている。これら「中間質量ブラックホール」の候補は「高明度X線天体」とも呼ばれ、明るいX線源でもある。ブラックホールの「事象の地平面」の内側からは光さえ出ることができないが、吸い込まれていくガスが加熱されることでX線やガンマ線が輻射される。実のところ、すべての「中間質量ブラックホール」の質量は、どれだけ強い重力があれば観測された明るさの光(X線)を生み出せるかという計算から見積もられているのだ。

アイオワ大学(米)のフィリップ・カーレット(Philip Kaaret)教授が率いるチームが観測したのも、こうした中間質量ブラックホール候補の一つだった。天体の名前は「M82 X-1」で、スターバースト銀河(解説参照)M82の中心付近に存在する。ただしM82の中心核より外にあるので、超大質量ブラックホールではない。すでに提唱されている理論によれば、短期間のうちに恒星が次々と合体することによって、やがて太陽の1,000倍の質量を持つ中間質量ブラックホールが誕生するという。M82 X-1の近くには、半径100光年の中に恒星が100万個も集まっている高密度の星団があり、こうした合体が起こるには十分な環境だ。おそらくM82 X-1もこうした星団から生まれたのではないかとみられる。

もちろん、カーレット教授らがとらえたのはブラックホールそのものではなく、ブラックホールへ落下する物質が発するX線だ。注目すべきなのは、M82 X-1が発するX線が非常に強いこと、そして62日周期で変化していることだ。周期的な変化から、ブラックホールの周りを何かが回転していることがわかる。もしこの伴星が通常の恒星ならば、観測されている明るさで輝くだけのガスを供給することができない。また、62日という公転周期から、伴星の密度が非常に低いことが示唆されるという。以上のことから、ブラックホールの周りを回っているのは主系列段階を終え、大きくふくれあがった超巨星であると考えられる。

「(伴星の)公転周期を発見したことで、私たちは中間質量ブラックホールとその伴星がたどってきた歴史を振り返ることが可能になりました。」とカーレット教授は語る。ところで、伴星の公転周期の他にその速度もわかれば、ブラックホールの質量をより直接的に求めることができるという。今のところ厚い星間物質に阻まれて、速度の測定に必要な可視光線・赤外線での観測は難しいが、まったくの謎に見えた中間質量ブラックホールの正体を見破るところまで、まさにあと一歩のところまで来ているのかもしれない。


スターバースト銀河: 爆発的な星生成現象が観測される銀河のこと。活動銀河の一種。スターバースト銀河では通常のペースをはるかに上回る「爆発的」生成が進む。これは、大規模かつ集中的な星間物質の圧縮が行われたことを意味する。(「最新デジタル宇宙大百科」より抜粋)