おそろしい月の砂ぼこりにご用心

【2005年5月11日 Science@NASA

NASAの病理学者から、月の砂ぼこりを直接吸い込むことで、命をも奪うようなおそろしい症状が引き起こされる可能性が指摘された。アポロ17号の宇宙飛行士は事実月の塵によるアレルギーとでもいえるような症状を引き起こしていた。また、これまでの火星探査では、土壌中にヒ素などの有毒な物質が存在する可能性も指摘されており、NASAでは、この問題に取り組む研究プロジェクトを立ち上げた。

(月面を歩くハリソン・シュミット宇宙飛行士)

月面を歩くハリソン・シュミット宇宙飛行士。クリックでパノラマ画像を表示(提供:NASA)

1972年のアポロ17号に乗船した宇宙飛行士たちは、月着陸船内で火薬のような臭いを体験している。月面を歩いて船内に戻ってきた宇宙飛行士たちがつけた足跡から、砂が舞い上がり臭いの元となったのだ。ハリソン・シュミット宇宙飛行士は、その後月の砂による花粉症とでもいえるような症状をうったえたが、数日後にはおさまり、この事件はほとんど忘れ去られた。

しかしそれを忘れていなかったNASAの病理学者は、月の砂ぼこりを吸い込むことで、宇宙飛行士の健康に悪影響が出ると指摘している。特に肺への影響は深刻で、月の砂(塵)は地球上の石英やガラスの粉とよく似ているが、こういったシリカのちりを吸うことで珪肺(けいはい)症という病気が引き起こされるという。

鉱山の中で、ドリル作業により飛び散った石英の粉に数ヶ月さらされただけで数百名の鉱夫が亡くなり、アメリカ史に残る悲惨な職業病の一つとなったのが珪肺症だ。このような悲劇が宇宙飛行士を直接襲うことはまずないのだが、専門家は月の塵から身を守る必要性を強調している。

また、火星の場合はさらにひどく、火星の砂が肌に触れるだけで、やけどを引き起こすおそれがある。というのも、鉄などの鉱物の酸化物である火星の表面の砂は、強力な酸化剤とでもいえる状態にあるかもしれず、プラスティックやゴムまでもが焼けてしまうかもしれないというのだ。さらには、マーズパスファインダーによる火星探査でも、土壌中にヒ素などの有毒な物質が含まれている可能性が示されており、NASAでは4年間の研究プロジェクトを立ち上げ、さまざまな観測機器を塵から護るためのコーティングフィルムや、宇宙服から塵を取り除く技術の開発を始める予定となっている。