すばる望遠鏡、がか座β星の周りで新たなダストリングを発見

【2004年10月7日 国立天文台 アストロ・トピックス(53)

がか座のβ(ベータ)星という星があります。日本からはほとんど見えない南天にあり、地球からは63光年の距離にある4等星ほどの恒星です。

1984年、この星を覆い隠して、その周りを撮影したところ、星の両側に細長く伸びた構造が発見されました。

これは星の周りにあるダストディスク(塵(ちり)の円盤)を真横から見ているものと考えられました。それ以来、「太陽系のような惑星系を今まさに作りつつあるところなのではないか」と注目され、多くの観測研究がなされてきました。

(微惑星が集まっているようすの想像図)

微惑星が帯状に集まっているようすの想像図(提供:ISAS/JAXA、イラスト:かんばこうじ)

最近の観測で、円盤内にも細かな構造があり、まるで土星の環のようにいくつかのダストリングに分かれていることがわかってきました。そのリングの距離は、中心星から82、52、28、14天文単位(1天文単位は地球と太陽の平均距離で約1億5千万キロメートル)とされていました。

すばる望遠鏡の中間赤外線観測装置COMICS(COoled Mid-Infrared Camera and Spectrogram)による精度の高い観測によって、今まで知られていたダストリングの内側、6.4天文単位に、新たなリングが発見されました。これはこれまでに知られているリングの中でももっとも中心星に近いもので、太陽系でいえば木星軌道ほどの場所に相当します。

それぞれのリングでは塵の量も多く、それだけで長期間にわたって安定に存在することはできません。主星からの強力な光によって、どんどん軌道が変わっていくからです。こういったリングが維持されているということは、現在でも、その場所では微惑星や小惑星、彗星などのような小天体が衝突し、塵を供給しているからだと考えられます。規模こそ違いますが、われわれの太陽系でも、火星と木星の間にある小惑星帯、海王星の外側にあるエッジワース・カイパー・ベルトが、頻度こそ低いものの、いまでも衝突による塵の供給源となっています。もし、これらのダストリングの位置が、木星のような惑星によるものであるとすると、それはリングの中間付近に存在し、その重力的影響によって、それぞれのリングの位置や幅が決まっていきます。

太陽系での小惑星帯の内縁と外縁は、木星軌道と2:1及び4:1の平均運動共鳴(軌道周期が整数比になる特殊な状態)の場所にあります。また、エッジワース・カイパー・ベルトの内縁は海王星と3:2の平均運動共鳴で仕切られています。

面白いことに、すばる望遠鏡の観測で求められたリングの距離は6.4、16天文単位です。6.4天文単位を小惑星帯と考えて、その惑星の位置を求めると、その距離は12天文単位となり、これが16天文単位のダストリングとちょうど3:2の平均運動共鳴となり、太陽系でいう海王星−エッジワース・カイパー・ベルトの関係と同じことになります。

がか座β星では、本当にこの位置に惑星が存在する可能性があるといえそうです。

今回の観測結果で更に注目すべき点は、ダストディスク中心部から結晶質珪(ケイ)酸塩鉱物が発見されたことです。星間空間は温度が低く、珪酸塩鉱物はすべて非晶質構造をしていて、それを結晶化させるには数百度から千度という高温が必要です。太陽系の天体を調べてみると、彗星にも結晶質珪酸塩鉱物が含まれています。どこで、どのように結晶化したものが、特に彗星のような低温でできた天体に取り込まれたのかは、まだよくわかっていないのです。実際、新発見の6.4天文単位のダストリングでも結晶質成分はほとんど見あたりませんでした。

中心部で結晶質珪酸塩鉱物が発見されたことで、ダストリングで生じた非晶質の成分が、中心星の影響で少しづつ中心部に落ち込み、そこで加熱されて結晶化したというシナリオを強く支持するものです。

いずれにしろ、新しいリング構造と結晶質珪酸塩が円盤中心に集中しているという今回の発見は、惑星形成初期に何が起きたのかを知る上でも、たいへん重要な成果といえるでしょう。