宇宙背景放射中にひも理論の糸口が見えるかもしれない

【2004年5月21日 YALE News Release

エール大学の研究者たちの発表によれば、宇宙背景放射を精密に計測することで、ひも理論が証明される可能性があるということだ。

ひも理論(弦理論)は、宇宙において大きなスケールで起きる力(重力)と小さなスケールで働く力(原子レベルの力)の物理の統一を試みる理論だ。現在は重力は相対性理論で、原子レベルの力は量子論によって記述されているが、ひも理論が目指すものは、宇宙に働くこれらすべての力(4つの力:重力、電磁気力、強い力、弱い力)の統一にある。

ひも理論が現れるのは、10のマイナス35乗メートル(水素原子の大きさの10兆の1兆倍分の1)というきわめて小さな世界で、かつひじょうに高エネルギーの世界だ。ひも理論は、検証不可能な理論として専門家からの批判的な意見もある。しかし、今回の発表によれば、宇宙背景放射を精密に計測することによって、ビッグバンの痕跡の中に、かすかではあるが、ひも理論を示唆する観測的な証拠が見出せるはずだというのだ。

研究チームは、宇宙背景放射を捉えた画像を拡大し、個々のピクセルについて、ゆらぎの比較と研究を進めている。このような作業が可能なのは、宇宙誕生直後にはきわめて小さなゆらぎだったものが、宇宙膨張によって現在では数光年というスケールに拡張されているおかげだ。

ひも理論による宇宙背景放射への影響はほんの1%にも満たないかもしれない。しかし、水星の軌道がニュートン力学から求められるものからずれており、その差が太陽の重力の影響を考慮したアインシュタインの一般相対性理論で説明されたように、ひも理論による影響も宇宙の謎を解く鍵をにぎっているかもしれないのだ。宇宙最大の問題を解決するかも知れないといわれる、究極の理論「ひも理論」について、直接的な実験検証は不可能だとしても、同大学チームによる研究成果の続報が楽しみなところである。