東京大学と国立天文台、GRAPE-6システムで2003年ゴードン・ベル賞を受賞

【2003年11月27日 国立天文台・天文ニュース(685)

ハイ・パフォーマンス・コンピューティングの世界におけるもっとも権威ある賞の一つであるゴードン・ベル賞(特別賞)を、東京大学と国立天文台の重力多体問題専用計算機GRAPE-6開発グループ、牧野淳一郎(まきのじゅんいちろう、東京大学理学系研究科助教授)、小久保英一郎(こくぼえいいちろう、国立天文台理論天文学研究系助手)、福重俊幸(ふくしげとしゆき、東京大学大学院総合文化研究科助手)、台坂博(だいさかひろし、国立天文台天文学データ解析計算センター研究員)が受賞しました。

(GRAPE-6システムの写真)

GRAPE-6システム。32個のプロセッサを搭載したプロセッサボード64枚から構成されている(提供:東京大学)

ゴードン・ベル賞とは、計算機設計者として有名な米国のゴードン・ベル(C. Gordon Bell)氏が、並列計算技術の推進のために1987年に創設した賞で、運営は、米国電気電子学会コンピューター協会(IEEE Computer Society)が行っています。

この賞は、並列計算機を実用的な科学技術計算に応用し、その年に最も優れた性能を出した人々に与えられる賞で、高速科学計算の世界のオリンピックともいうべきものです。実効性能、価格性能比、コンパイラ等の部門があり、それぞれ応募があったものの中から審査によって受賞者が決まります。今年は全体で207論文の応募があり、うち60件が候補論文として挙がっていました。授賞式と受賞内容の講演は、毎年、米国で開かれるスーパーコンピューティング国際会議の会場行われます。今年の国際会議は、アリゾナ州フェニックスで、11月15日〜21日に開催され、20日に受賞式がありました。

今回の特別賞受賞理由は、GRAPE-6システムにより、33.4Tflops(テラフロップス)という世界最高速の実効性能を達成したことが高く評価されたためです。その威力は、太陽系外縁部のカイパーベルトの太陽系形成初期における進化の多体シミュレーションの計算により示されました。なお、1Tflopsは、1秒に1兆回計算をするという計算速度の単位であり、33Tflopsは、最新のパソコン数万台分に相当する性能となります。

重力多体問題専用計算機GRAPEシステムは、東京大学が1989年から開発している天文シミュレーションのための専用計算機です。GRAPEの開発グループは、2000年、2001年にも現在のGRAPE-6の20分の1 および2分の1のシステムでのシミュレーションによりゴードン・ベル賞(実効性能部門)を受賞するなど、今回が6回目の受賞ではありますが、国立天文台にとっては初めての受賞となりました。なお、1995年には航空宇宙技術研究所・山形大学・広島大学のグループが、2002年には地球シミュレータセンターが受賞しています。ちなみに国立天文台ではGRAPE-6システムの共同利用を行っています。研究提案が採用されれば、誰でも世界一のスーパーコンピュータを使用することができます。