宇宙で一番低温の天体、ブーメラン星雲

【2003年2月20日 ESA Hubble Information Centre

NASAESA(ヨーロッパ宇宙機関)が共同運用しているハッブル宇宙望遠鏡が1998年に撮影した、ブーメラン星雲と呼ばれる天体の写真が公開された。

(ブーメラン星雲の写真)

ブーメラン星雲(提供:NASAESA、R. Sahai and J. Trauger (Jet Propulsion Laboratory))

ブーメラン星雲はケンタウルス座にある惑星状星雲で、地球からは5000光年離れている。1980年にオーストラリアの望遠鏡を使った観測で発見された天体だが、当時はこの写真ほど細かい形状まではわからずブーメランのような曲がった形に見えたため(そしておそらく、オーストラリアで発見されたため)このような名前が付けられた。ハッブル宇宙望遠鏡の写真を見れば、むしろ「蝶ネクタイ星雲」とでも呼ぶほうがふさわしいだろう。

1995年、南米チリのサブミリ望遠鏡を使った観測で、この星雲の温度が絶対温度1度(摂氏-272度)という極低温であることがわかった。この温度は、全天に広がっているビッグバンの名残である宇宙背景放射の温度(絶対温度3度)よりも低い。宇宙背景放射の温度より低温の天体はブーメラン星雲以外には知られておらず、この天体が今のところ宇宙で一番低温の天体ということになる。

これほど低温なのは、星雲の中心星から吹く風が高速であるためだ。ブーメラン星雲では、時速50万kmという猛烈な勢いでガスが吹き飛ばされている。中心の星は1年間に太陽の約1000分の1ほどずつ質量を失い、1500年間にわたって質量を放出し続けている(つまり、これまでに太陽1.5個分ほどの質量を失ったということだ)。

ブーメラン星雲のもう一つの特徴は、惑星状星雲によく見られる泡のような丸い形ではなく蝶ネクタイのようにとがった形をしていることだ。ブーメラン星雲はひじょうに若い天体なので、まだ丸い形になるほど時間が経っていないのではないかという説もある。惑星状星雲はそれぞれ個性的な形をしているが、その多様性の原因はまだよくわかっていない。

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